研究課題/領域番号 |
21K18315
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
江尻 省 国立極地研究所, 先端研究推進系, 准教授 (80391077)
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研究分担者 |
桂川 眞幸 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (10251711)
中村 卓司 国立極地研究所, 研究教育系, 教授 (40217857)
津田 卓雄 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (90444421)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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キーワード | 原子・イオン共鳴散乱ライダー観測 / 大気圏・電離圏結合 / 鉛直輸送 / 二波長同時発振レーザー / カルシウム原子・イオン |
研究実績の概要 |
地球と宇宙の境界領域(高度80-150 km)は、大気が中性大気から電離大気(プラズマ)に変化する地球大気の遷移領域である。しかし、中性大気とプラズマ共に観測手段が限られており、同時観測が困難であるため、化学変化を伴うこの領域の物質輸送は本質的に未解明である。本研究では、この遷移領域において同一空間の中性原子とイオンの密度高度分布を同時に観測可能な世界初の原子・イオン共鳴散乱ライダーを開発し、地球と宇宙をつなぐ物質の鉛直輸送過程を解明することを目的としている。 本年度、送信レーザー開発では、レーザー共振器の調整により、カルシウムイオン(Ca+)の共鳴散乱線(393.5 nm)、およびカルシウム原子の共鳴散乱線(422.8 nm)のレーザー光を得るための基本波(786.9 nm, 845.6 nm)発振安定性を高めた。二波長の種レーザー光を注入して共振器を調整することで、出力は弱いながらも二波長同時発振に成功した。また、基本波から倍波への波長変換を行う非線形結晶の材質を再検討し、変更することで変換効率を向上させた。ライダーシステム開発では、二波長の散乱信号を同時に検出するための分光光学系とデータ収録系を製作し、改良を行っている。種レーザーの発振波長を制御する波長計の絶対精度を向上させるための参照光源の改良も前年度に引き続き進めている。 ライダーシステム開発と並行して、これまでの観測試験で得られたCaもしくはCa+の層構造とその時間変化についての解析も進めており、日本上空で突発的に発生し短波通信に異常をきたすことが知られているスポラディックE(Es)層との関連や、鉛直分布や高度変化の対応関係について国内学会・研究会で報告し、関連研究者と情報交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和5年度は、送信レーザー開発では、電気通信大学の桂川眞幸教授と大学院生(研究協力者)が主体となって開発しているチタンサファイア(Ti:s)レーザーをベースにした二波長同時発振・注入同期固体レーザーで、カルシウムイオン(Ca+)の共鳴散乱線(393.5 nm)と、カルシウム原子(Ca)の共鳴散乱線(422.8 nm)の二波長同時発振に成功した。今のところ二波長同時発振の動作確認と安定度を向上させるための共振器の調整は、低い繰り返し周波数で行っている。一晩連続したCa/Ca+同時観測のためには二波長同時発振の安定度と出力をさらに向上させる必要がある。 共鳴散乱ライダー観測では、送信レーザーの波長が正確に共鳴散乱波長と一致している必要があるため、発振波長を正確に測定し調整する必要がある。レーザーの発振波長制御に用いている波長計の絶対精度を高めるために、波長計校正用の参照光源を波長安定化He-Neレーザー光から発振波長をカリウム原子の飽和吸収線(Doppler-free)の一つに固定(ロック)したレーザー光に置き換えることを試みた。現行の光学素子構成ではカリウム原子のDoppler-freeの強度が弱いため、検出成功率が低いことによる波長ロックの不安定さが課題になっている。波長ロックを安定させるためにはレーザーの出力やアライメント、光学素子構成などの再調整や再検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は、①送信レーザーの二波長同時発振時の安定性と出力の向上と、②波長系の絶対精度の改善の2つの課題に取り組む。①については、まずは低いレーザー繰り返し周波数で共振器の調整を行って2波長同時発振の安定度を向上させる。その後、2波長同時発振の安定度を維持しながらレーザー繰り返し周波数を徐々に上げていくことで、高安定・高出力化を図る。②については、参照光用のレーザーでDoppler-freeを検出するための最適なレーザー出力やアライメントを実現するための調整を行うと共に、カリウム以外の原子を利用したDoppler-free検出についても検討し、波長ロックの成功率向上を図る。送受信系を連携させてCa/Ca+同時観測が可能な共鳴散乱ライダーシステムを構築し、室内実験だけでなく観測試験も行う。共鳴散乱ライダーシステムとしての動作確認、観測ソフトウェアやデータ収録系の改良を行いながら観測データを蓄積すると共に、金属原子・イオン共鳴散乱ライダーシステムによる観測の結果について、国内外の学会・研究会で成果報告を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
送信レーザーの光源として購入を検討していたNd:YAGレーザーがウクライナ情勢の悪化により入手不可能となったため、現行のNd:YAGレーザーを光源としたままで、Ti:sレーザーの発振効率向上および波長制御システムの絶対精度向上を図っている。これに必要な光学部品・電子部品を随時購入してきたが、試行錯誤に時間がかかるため、次年度も引き続き実験を続けつつ必要物品の選定と購入を予定している。関連する国内外の学会・研究会には出来る限り現地参加して成果報告および情報交換・収集を行う。
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