研究課題/領域番号 |
21K18316
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
河原 成元 長岡技術科学大学, 工学研究科, 教授 (00242248)
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研究分担者 |
山本 祥正 東京工業高等専門学校, 物質工学科, 准教授 (90444190)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 天然ゴム / リサイクル / ネットワーク / ナノコンポジット / ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
令和4年度は、ナノ粒子間の距離を精密に制御することにより、物性を制御する検討を行った。具体的には、ナノ粒子のゴム状ナノコンポジットをマトリックスとするネットワークポリマーについて構造と力学物性との関係を精緻に解析した。まず、令和3年度に引き続き、直径数 μmのゴム状ポリマー粒子の表面にナノ粒子を結合してから表面を互いに貼り合わせることにより、厚さ数nmのマトリックスにゴム状ポリマー粒子が分散したナノ構造(ナノ海島構造)を形成した。ここで、ゴム状ポリマーは天然ゴムとし、ナノ粒子は種々のビニルモノマーをグラフト共重合することにより調製した有機系ナノ粒子、ナノダイヤモンドおよびナノシリカ等の無機系ナノ粒子、アルブミン等の生物系ナノ粒子を用いた。透過型電子顕微鏡を用いてモルホロジーを観察することにより、全ての試料においてナノ海島構造が形成されていることを確認した。これらの試料について引張試験を行うことにより、次の3つの結果が得られた。 ① シリカナノ粒子を用いてナノ海島構造を形成した場合、破断応力の値は約16 MPaであった。 ② ビニルモノマーをグラフト共重合することにより調製した有機系ナノ粒子およびナノダイヤモンドを用いてナノ海島構造を形成した場合、破断応力の値は約20 MPaであった。 ③ ビニルモノマーをグラフト共重合することにより調製した有機系ナノ粒子およびシリカナノ粒子をハイブリッドしてナノ海島構造を形成した場合、破断応力の値は約23 MPaであった。 透過型電子顕微鏡観察を行った結果、③で破断応力の値が最も大きくなったのは、ビニルモノマーをグラフト共重合することにより調製した有機系ナノ粒子とシリカナノ粒子とをハイブリッド化してナノ海島構造を形成することにより、ナノ粒子がより緻密に充填されたことによるものであることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ナノ粒子のゴム状ナノコンポジットを厚さ数十nmのマトリックス(ナノマトリックス)とし、これに直径数μmのポリマー粒子を分散させたナノ構造(ナノ海島構造)を形成することによりリサイクル可能なネットワークポリマーを調製することを目的としている。これは、従来のナノ相分離構造をネットワークとする熱可塑性エラストマーでは実現が困難な目標である。これまでの研究では、強度を高く保持したまま、変形-回復を繰り返すことは可能であるが、破断応力の値は最大で18 MPaであることが問題であった。令和4年度の研究により、有機ナノ粒子と無機ナノ粒子とをハイブリッド化することにより破断応力の値を23 MPaにすることに成功した。これは、大きなブレークスルーであり、目標に近づいたことから研究は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、破断応力の値を目標である30 MPaにするための工夫を凝らす必要があると考えられる。ナノ海島構造は、熱可塑性エラストマーとは異なり、ナノ粒子を密に充填したドメインをネットワークにしているためハードドメインは連結していない。それ故、強度を高く保持したまま、繰返し大変形-回復を行えるのが特徴である。これは、ハードドメインを連結した熱可塑性エラストマーで永久歪みが大きく、一度延伸するとハードドメインが砕けることにより二度目の延伸以降は強度が低くなるのとは異なる特異的な物性である。しかしながら、ハードドメインが連結していないため破断応力の値は18 MPa程度であることが問題であった。これに対して、令和4年度の研究では、ナノ粒子を小さくすることにより破断応力の値を23 MPaにすることができた。これは、これまでの成果とは異なる、顕著な、新しい成果である。そこで、令和5年度は、有機ナノ粒子と無機ナノ粒子を強い分子間引力でハイブリッド化することにより破断応力の値を30 MPaに近づけるように研究計画を変更する。具体的には、有機ナノ粒子としてスチレンとヒドロキシエチルメタクリレートを共重合し、シラノール基の多いシリカナノ粒子を充填することにより分子間引力を大きくして物性の向上を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究において、目的物が調製されていることを実証するために必要不可欠なNMRに関して、液体ヘリウムを令和4年度に充填する予定であったが、業者の都合により年度内に納入することはできなくなった。それ故、令和5年度にそれら一式を納入することになった。次年度使用額が生じた利用はこのためであり、令和5年度に必ず使用する。
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