研究課題
本研究では、精密高分子合成とナノテクノロジーを巧みに用いることにより、世界ではじめて全身投与によって部位特異的にオートファジーを制御(on/off)し、腫瘍を縮小あるいはがんの進行を抑制させることが可能な注射剤の開発を行っている。具体的には(1)環状構造を有する疎水性低分子薬剤・ラパマイシンやバフィロマイシンなどの分子内にあるオングストロームサイズの空間空隙を生体適合性高分子化合物で縫い合わせて水溶化させる技術を確立し、この技術によってポリロタキサン様の構造を有する新規水溶性超分子医薬品を開発している。さらに(2)これらの新規薬剤の全身投与によって、頭頸部がんや脳腫瘍などの悪性腫瘍に対する革新的な治療法の提供を目指している。本年度はラパマイシンとポリエチレングリコールから形成されるロタキサン医薬品を用いてin vitroならびにin vivoでの実験について昨年度よりも詳細に検討した。In vitroの実験では頭頸部がん細胞(HSC-2)を用いて、ローダミンにて蛍光ラベル化されたロタキサン医薬品がマクロピノサイトーシス経由で細胞内へ取り込まれてることが明らかとなった。また、ロタキサン医薬品を播種した群ではp-S6Kの消失からThr389のリン酸化抑制が確認されている。さらにLC3の増加からオートファジーの活性化が確認されている。HSC-2を皮下へ移植した担がんモデルマウスを用いたin vivoの実験では、同ロタキサン医薬品の投与量依存的な腫瘍増殖抑制効果が見出された。摘出した主要臓器に関して、in vitroでの実験同様にS6KとLC3のマーカーを調べた結果、腫瘍選択的なリン酸化抑制とオートファジー活性の向上が認められた。今後は体内動態試験を実施するなどし、本製剤の注射剤としての有用性を確認するとともに、各生理学的パラメーターなど副作用に関するデータを取得する予定である。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、in vitroならびにin vivoの実験に於いて昨年度よりも詳細なデータを取得することができた。また、関連の研究としてロタキサンのキャッピング分子を新たに設計し、その合成を進めるなど、脳腫瘍等他の悪性腫瘍に対するアプローチも粛々と進めている。バフィロマイシンに関する値段高騰の問題は解決に至っていないが、in vivoにおけるオートファジー制御を可能とする他薬剤の選択も視野に入れながら研究を進めている。
次年度は追加の薬効試験に加えてロタキサン医薬品の体内動態試験を実施する。また、生理学的パラメーターの取得や作用機序についても詳細に究明する。さらに、キャッピング分子の合成による能動的DDSへの展開やがん以外の疾患である動脈瘤など拡張性の動脈疾患への応用を模索する予定である。
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