研究課題/領域番号 |
21K18358
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
徳永 健伸 東京工業大学, 情報理工学院, 教授 (20197875)
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研究分担者 |
山元 啓史 東京工業大学, リベラルアーツ研究教育院, 教授 (30241756)
横野 光 明星大学, 情報学部, 准教授 (60535863)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 語彙テスト / 生産語彙 / 言語学習 / 対話システム / 語彙能力指標 |
研究実績の概要 |
本研究は言語学習者の生産語彙能力をコンピュータとの対話を通して評定する手法を確立することを目的としている.初年度は,以下の3つの項目について研究をおこなった. (1)生産語彙能力評定のためのコンピュータテストに関する先行研究についてサーベイをおこなった.その結果,従来のほとんどの語彙テストは言語刺激を一問一答形式のものであり,コンピュータとのインタラクションを通じて生産語彙能力の評定をおこなうものはまれであることがわかった.これを踏まえて研究の方向性として,(i) 言語刺激だけではなく,マルチモーダルな刺激による生産語彙の誘発,(ii) 対話などのインタラクションによる生産語彙の誘発の2つの方向性が考えられるという知見を得た. (2) (i)の方向性として同一のテーマの写真集合を刺激として与え,それらの写真から連想される語や状況記述を解答させる形式の語彙テストPic2PLexを考案し,日本語学習者の協力を得て,小規模なデータ収集をおこない,その有効性を確認した. (3) 語彙能力評定のための評価尺度として,従来は語彙のサイズを推定するものがほとんどである.語彙サイズの推定のための前提として,語の使用頻度による語の難易度を定義し,学習者は難易度の易しい語から学習することを想定している.我々は語の難易度に加え,獲得語彙の意味的な拡がりを評定に導入することを提案し,Vocabulary Volumeという新しい評価尺度を提案した.研究項目(2)で収集したデータを用いて提案した評価尺度が学習者の言語能力レベルをうまく弁別できることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は言語学習者の生産語彙能力をコンピュータとの対話を通して評定する手法を確立することを目的としている.初年度は,以下の3つの項目について研究をおこなった. (1) 生産語彙能力評定のためのコンピュータテストに関する先行研究についてサーベイをおこなった.その結果,従来のほとんどの語彙テストは言語刺激を一問一答形式のものであり,コンピュータとのインタラクションを通じて生産語彙能力の評定をおこなうものはまれであることがわかった.これを踏まえて研究の方向性として,(i) 言語刺激だけではなく,マルチモーダルな刺激による生産語彙の誘発,(ii) 対話などのインタラクションによる生産語彙の誘発の2つの方向性が考えられるという知見を得た. (2) (i)の方向性として同一のテーマの写真集合を刺激として与え,それらの写真から連想される語や状況記述を解答させる形式の語彙テストPic2PLexを考案し,日本語学習者の協力を得て,小規模なデータ収集をおこない,その有効性を確認した. (3) 語彙能力評定のための評価尺度として,従来は語彙のサイズを推定するものがほとんどである.語彙サイズの推定のための前提として,語の使用頻度による語の難易度を定義し,学習者は難易度の易しい語から学習することを想定している.我々は語の難易度に加え,獲得語彙の意味的な拡がりを評定に導入することを提案し,Vocabulary Volumeという新しい評価尺度を提案した.研究項目(2)で収集したデータを用いて提案した評価尺度が学習者の言語能力レベルをうまく弁別できることを示した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた2つの成果 (1) 写真集合を使った生産語彙テストPic2PLexの提案,(2) 語彙の意味的拡がりを考慮した語彙能力指標Vocabulary Volumeの提案を論文にまとめ,コンピュータの教育応用に関連する国際会議や国際学術論文誌に発表する予定である. 上述したとおり,学習者の生産語彙を誘発する方法として,対話などのインタラクションを使う方向性が考えられる.Pic2PLexは従来の語彙テストと同様に一問一答形式なので,どちらかというと静的な環境における語彙の誘発である.これに対して対話の中で誘発される語彙はより動的な環境における生産語彙だと考えられる.これを実現するための研究項目として,(i) どのような観点から語彙を誘発すべきか,(ii) そのためにはどのようにシステム側の発話(刺激)を制御すればよいかの2点が重要となる.(i)については語の難易度やトピックなどの観点が考えられる.また,(ii)についてはシステムがどのような発話(刺激)をすれば,学習者がそれぞれの観点で誘発したい語を応答中で使うかをまず調査する必要がある.このためには既存の対話コーパスを分析する予定である.それをふまえて,システムが刺激発話をする際の語彙や構文などを制御するメカニズムを実現する必要がある.次年度以降はこれらの項目を中心に研究を進める予定である. また,これと平行して,できるだけ実際の言語学習環境に近い環境でPic2PLexを使ってより大規模なデータを収集し,収集したデータを利用してVocabulary Volumeによって分析する.その結果をふまえてPic2PLexやVocabulary Volumeを洗練する.
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