研究課題
令和4年度は,筑紫地区遺跡群周辺の現地調査を実施した.調査目的は,①土器の原料となる粘土の起源物質となる遺跡周辺の岩石の採取および,②弥生土器作成時に粘土に混和する砂利(混和材)の採取である.①に関してはキャンパスを含む旧遺跡群内では,開発が進み露頭を見出すことができなかったが,遺跡群近くの牛頸川に露出する花コウ岩を採取した.②に関しては,砂利の採取地として可能性の高い牛頸川河原より土器中に認められる混和材とほぼ同じ粒度の川砂を採取した.本年度の調査により採取した花コウ岩および川砂各1点,昨年度採取した弥生土器1点,丹塗り弥生土器1点,須恵器1点,遺跡群周辺の風化土壌/粘土質土壌3点からジルコン分離を行い,昨年度分離した弥生土器1点を合わせて計9資料/試料からジルコンを得た.弥生土器,風化土壌/粘土質土壌,花コウ岩のジルコンはいずれも粗粒であり,自形性が強いが,須恵器中のジルコンは細粒であり,自形性が強い粒子は少ない.また,弥生土器に関しては,200gの資料から1000粒程度のジルコンを得られたのに対し,須恵器ではその含有量が約150粒子と少なかった.さらに,風化土壌/粘土質土壌には多量のジルコンが含まれていたが,川砂約3kgからは約20粒子のジルコンしか分離することができなかった.これらの多様な資料/試料についてジルコン分離結果から,土器中のジルコンは混和材を起源とするものではなく,粘土を起源とする可能性が極めて高いと判断できる.得られた全ジルコンに対して,カソードルミネッセンス像による内部組織を観察し,予察的な年代測定を実施した.予察的な年代測定結果から,丹塗りを併せた全ての弥生土器のジルコンの年代は,9千5百万年前から9千万年前に集中し,この年代集中は風化土壌/粘土質土壌のものとほぼ一致することが明らかとなった.
2: おおむね順調に進展している
丹塗り弥生土器1点を含めた弥生土器3点,須恵器1点,それらの胎土の原料と考えられる風化土壌/粘土質土壌3点,粘土の起源と考えられる花コウ岩1点,混和材の起源と考えられる川砂1点からジルコンを分離し,ジルコンの起源が粘土由来であると明らかとなったため.また,来年度の分析につながる予察的なデータを得られたため.
予察的な年代測定結果から,丹塗りを併せた全ての弥生土器のジルコンの年代は,9千5百万年前から9千万年前に集中し,この年代集中は風化土壌/粘土質土壌のものとほぼ一致することが明らかとなった.一方で,花コウ岩は約1億年前から9千5百万年前の年代,須恵器のジルコンは206Pb-238U年代と207Pb-235年代が一致しないディスコーダントな年代をしめし,弥生土器とはジルコンの起源が異なる可能性をしめした.これらの予察的なデータは,全ての資料/試料から得られた年代が,約1億5百万年前から9千万年前の非常に幅の狭い範囲に集中することをしめしている.昨年度の予察的データ取得は,レーザー径25ミクロンで採取したものである.今後の分析では,35ミクロン系を使用することで誤差を最小限にし,試料ごとの僅かな年代の違いを検出する.本年度は,丹塗り弥生土器1点を含めた弥生土器3点,須恵器1点,それらの胎土の原料と考えられる風化土壌/粘土質土壌3点,粘土の起源と考えられる花コウ岩1点,混和材の起源と考えられる川砂1点の合計9点全ての年代測定を実施,必要であれば現地調査と試料採取,追加分析を実施し,得られた全てのデータから砕屑性ジルコンによる土器製作地の精密解析法の有用性を議論するとともに,筑紫地区遺跡群の解析結果について考察する予定である.
令和4度調達予定であったエキシマレーザーガスが,ロシアのウクライナ侵攻に伴って入手困難となり令和5年度の調達となった.また,ガスの価格も約40万円から250万円に高騰し,大幅な予算計画の見直しを行う必要があったため.
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