研究課題/領域番号 |
21K18388
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研究機関 | 奈良県立橿原考古学研究所 |
研究代表者 |
水野 敏典 奈良県立橿原考古学研究所, 企画学芸部資料課, 課長 (20301004)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 大型砥石 / 鍛冶関連遺物 / 纒向遺跡 / 布留遺跡 |
研究実績の概要 |
研究目的は、日本における刀剣類の製作開始年代を、古墳時代前期後半以降から中期とする解釈が主流である中で、新視点として大型砥石に注目して、より年代が遡る可能性がないかを検討することにある。 今年度の調査は、新型コロナ感染症対策から計画通りに実施できなかったが、2件の主要な外部機関の調査が実施できた。桜井市埋蔵文化財センターでは、纒向遺跡メクリ地区以外の174次等の鍛冶関連遺物と砥石とともに、纒向遺跡出土の剣・ヤリ類および木鏃の実測を行った。その成果をもとに鍛冶関連遺物の分布図を作成し、「纒向遺跡における大型砥石と鍛冶関連遺物の基礎的研究」と題して日本考古学協会総会でポスターセッションを行った。また、橿原考古学研究所による纒向遺跡第111次(勝山古墳2次)の未報告の砥石27点を中心に鍛冶関連遺物を整理した論考を『橿原考古学研究所論集第19』に投稿した。 調査では、埋蔵文化財天理教調査団所蔵の布留遺跡の砥石について3回にわたり調査を実施した。布留遺跡は古墳時代中期から後期を中心に鍛冶関連遺物が大量に出土しており、刀剣類の製作が強く想定される遺跡として、その砥石の様相の把握は、纒向遺跡などの砥石を評価する上での貴重な情報となった。本科研の成果を含む講演に、大阪市歴史博物館での古代歴史文化協議会のパネルディスカッション『刀剣が語る巨大古墳の時代』と、橿原考古学研究所による第42回公開講演会「刀剣からみた藤ノ木古墳」があり、古代歴史文化協議会が刊行した『刀剣』(ハーベスト出版)において「刀剣類の生産」他を執筆し、研究成果の普及に努めた。また、古代武器研究会の『古代武器研究』Vol.17の「黒塚古墳にみる武器副葬とは何か」において中国の刀剣の様相に触れつつ、刀剣類の製作開始年代が遡る可能性を指摘した。並行して、大型砥石の集成を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の基準資料となる纒向遺跡、布留遺跡の砥石の調査を行うことができた。また、調査した資料について、古代武器研究会の雑誌『古代武器研究』や古代歴史文化協議会刊行の『刀剣』に研究成果の一部を発表することができた。また、『橿原考古学研究所論集』に纒向遺跡の鍛冶関連遺物についてまとめたものを投稿し、布留遺跡についても分析を進め、別に研究発表の準備を進めることができた。今後は、新型コロナ感染症の影響で、遠隔地の調査が実施できていない分を、次年度に古墳時代の他の地域の鍛冶関連遺物や、弥生時代の大型砥石について調査を進めることで、鉄器(金属器)の生産状況と砥石の関係を明らかにし、本研究の目的を達成したい。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に従い、資料調査と研究発表の用意を並行して進める。 資料調査は、纒向遺跡出土資料を優先的に整理する。桜井市側の資料調査を先行して進め、橿原考古学研究所収蔵の纒向遺跡資料と統合した分析を進める。その評価については、刀剣類製作開始後とみられる布留遺跡の砥石を含めた鍛冶関連遺物の整理が必要であり、その成果発表を目指す。 その上で、大型砥石出土の大阪府大仙中町遺跡や、鍛冶関連遺物の出土する島根県古志本郷遺跡、長崎県原の辻遺跡などの資料調査の準備を進める。 また、資料調査の方法として、メクリ1号墳出土砥石における三次元計測による陰影画像作成の経験から、その有効性を認めて、大型砥石についてはメタシェープによる3Dモデル化を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
主な理由は、新型コロナ感染症対策により資料調査が計画通りに行えなかったことと、研究補助の人材を集めることが難しかったためである。 今年度の資料調査については、新型コロナ感染症が、下火になれば島根県古志本郷遺跡、長崎県原の辻遺跡などの遠隔地の有力な鍛冶遺跡の調査を進めることができれば、研究目的を果たすことができる見込みである。
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