研究課題/領域番号 |
21K18399
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
増田 和也 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 准教授 (90573733)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 遊休農地 / 粗放的土地利用 / 在来知 / 半栽培 / 萱 / コンニャク / 混植 / 四国山地 |
研究実績の概要 |
今日、日本国内の農山村では、人口減少・高齢化により遊休農地が増加しており、農業生産の維持だけでなく、国土保全の上でも深刻な問題となっている。本研究の目的は、半栽培という在来知を労働力・資材の低投入という点から再評価して現代的意義を検討するとともに、それを活かすことで低位安定型の生産と土地管理の両立を図る粗放的農地利用のモデルを構築することである。 2022年度は前年度に引き続き、高知県の山間地に位置する大豊町東豊永地区を主たる調査地とした。そして、粗放的栽培作物の一例としてコンニャクに注目し、コンニャク栽培における萱の利用と萱材確保のための草地管理について実践的な研究を行った。具体的には、コンニャクの自然生(じねんじょう)栽培を行う農家へ聞き取り調査を行い、農耕暦や萱場管理についての情報を収集した。そして、萱は、急傾斜地の農地における表土流出防止、防草、肥料として、3つの効果が認識されていることがわかった。また、萱は稲作に向けた土質改良材として、現在も一部農家では積極的に利用されていることも明らかになった。一方、こうした聞き取り調査で得られた情報にもとづきながら、コンニャクの自然生栽培放棄地に実験区を設定し、前年度に収穫した萱を敷草として施し、雑草の発生具合とコンニャクの生育状況を調査した。そして、萱を約30センチメートルの厚さで敷いて防草効果を高めながら、コンニャクを栽培できることがわかった。あわせて、萱場管理にも取り組んだ。 さらに高知での事例を広い視点で位置づけるために、萱の利用を現在も継続的に行っている地域として、滋賀県東近江市の山間地で茶栽培農家を対象に聞き取り調査を行った。そして、用途に応じて萱の刈り取り時期に3つのパターンがあることがわかった。また、茶とコンニャクが混植されている事例にも出会い、混植も本研究課題の重要な要素であることが見えてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度も新型コロナウイルス感染再拡大のために、とくに前半を中心として県境を跨いでの移動が制限された時期もあり、高知県内の定点調査地(大豊町東豊永地区)での研究を中心に進めた。そして、昨年度から引き続き、 粗放的・半栽培的な資源利用の事例としてコンニャクの自然生栽培と萱利用に注目し、放棄されたユズ・ゼンマイ畑に混在して出現するコンニャクに、隣接する採草地からの萱を敷草として利用する粗放的栽培方法について実践的な研究を進めた。一連の成果は、富山大学極東地域研究センター主催シンポジウム「農業における地域資源利用の可能性と課題」(2023年3月15日、於:富山国際会議場)において「地域資源利用からみる在来農法の再評価」と題して講演した。 この実践的研究についてはおおむね順調に進んでいるものの、調査地の栽培区画や草地がイノシシにより掘り返されたり、シカもしくはウサギによる食害に遭ったりするなどして荒らされてしまい、一部でデータ収集が計画どおりにできていない状況にある。 また、当初の計画では、国内だけでなく東アジア一帯にまで比較対象を広げ、半栽培を中心とする伝統的・粗放的な資源利用について、文献調査により事例の収集を進める予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大による制限のために学外機関での文献収集が進まず、これについての作業が若干遅れている状況にある。以上のことから、このような自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も、これまでの2年間と同様に、高知県内2ヶ所(大豊町東豊永地区、高知大学物部キャンパス)において、コンニャクイモ栽培、萱利用、萱場管理についての実践的研究を進める。そこでは、とくに防草の観点から萱利用を労働力・資材の低投入と関連づけて再評価することを試みる。 また、高知での実践研究の成果を他地域の事例と比較して広い視点から位置づけるため、国内および東アジア地域での事例を文献から収集する。加えて、 新型コロナウイルス関連の移動制限が解消されたことから、コンニャクの自然生栽培および萱利用が行われている国内地域において現地調査を実施する予定である。 一方、次年度は本研究課題の最終年度であり、一連の成果を関連学会で口頭発表するとともに、報告書および論文として取りまとめていく予定である。また、本研究の成果を次のステップに展開させるべく、萱を活かした粗放的栽培や萱場管理について生態学的や農業経済学の視点から再評価できるよう、関連分野の研究者と意見交換を行い、今後の研究についての視点とネットワークを広げることを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度には、半栽培を活かした自然資源利用を行っている国内地域での調査を2回計画していたが、新型コロナウイルス感染拡大が終息していないこともあり、1回しか実施できなかった。このため、国内旅費1回分に計上していた予算の一部を使用することができなかった。本年度は、この額を国内調査のための経費として使用する予定である。
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