本研究の目的は、半栽培という在来知を労働力・資材の低投入という点から再評価して現代的意義を検討するとともに、それを活かすことで低位安定型の生産と土地管理の両立を図る粗放的農地利用のモデルを構築することである。まず、高知県の山間地に位置する大豊町東豊永地区を主たる調査地とした。そして、粗放的栽培の一例としてコンニャクの自然生(じねんじょう)栽培に注目し、コンニャク栽培を行う農家へ聞き取り調査を行い、農耕暦や栽培管理技術に関する情報を収集した。そこでは、急傾斜地の農地における表土流出防止、防草、肥料の3つの目的から、コンニャクの栽培区画にカヤを敷草として施していた。そこで、カヤ材確保のための草地管理と併せながら、聞き取りで得られた在来知をもとに、放棄されたコンニャク自然生栽培地の復元に取り組んだ。カヤ場管理について、一部の農家は自生カヤの株を残すように草刈りを行っており、カヤについても半栽培がなされていることがわかった。一方で、カヤを厚く敷きつめることは、その下の土壌温度の上昇を妨げることになることがわかった。さらには、一部農家の間では、カヤを敷き詰める前に除草剤を散布しており、必ずしも資材の低投入に結びついているわけではない現実も見えてきた。 また、他地域におけるコンニャク自然生栽培およびカヤ利用の状況について把握するため、2022年には滋賀県東近江市政所地区で、2023年度には宮崎県西臼杵郡日之影町と山梨県上野原市西原地区で聞き取り調査を実施した。このうち滋賀と山梨の事例ではカヤの敷草が施されていたが、宮崎ではカヤの敷草としての利用は見られなかった。しかし、いずれの地域でもコンニャク栽培における防草と除草の重要性は認識されていた。また、高知、滋賀、宮崎ではコンニャクが他の作物と混植されている事例が散見され、半栽培を活かした空間利用にも複数のパターンが考えられる。
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