本年度は,研究計画の最終年度であり,今後の研究計画発展のための実験を実施したほか,いくつかの研究成果を公表することができた。 特に,研究代表者森田と研究分担者尾野による共同研究は,日本の裁判官に対する一般国民からの公正性評価がどのような要因に基づくのかを明らかにした。この共同研究においては,複数回にわたるオンラインサーベイ実験を行った。これらの実験では,実際の日本国民と性別・年齢層・居住地を同じ比率にした被験者サンプルを構築した上で,それらの被験者に対し,ランダムに条件を変えた短いシナリオを提示し,それに対する被験者の反応を記録することで,ランダム化比較対象実験による厳密な因果推論を行った。その結果,米国における先行研究とは正反対に,日本においては,男性裁判官よりも女性裁判官が下した判決の方が「公正」であると評価されやすいことが明らかになった。本研究はさらに,このような結果が観察される原因について複数の仮説を立てて比較検証を行った結果,日本においては女性の社会的地位が低いことから,それにもかかわらず裁判官となった女性裁判官への評価が高まった,というメカニズムが最も説得的であるとの結論に至った。もっとも,興味深いことに,企業経営者が女性であった場合には同様のメカニズムは打倒しない。この違いは,司法あるいは政治における女性の地位の低さが影響しているのではないかと考えられる。 これらの研究の結果は,MPSA(Annual Meeting of Midwest Political Science Association)やLSA(Law and Society Association)といった国際学会において報告され,研究成果を発信するとともに,海外の研究者からのフィードバックを受けることで,研究のブラッシュアップを行うことができた。
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