近代日本の捕虜処遇は明治・大正期には世界的にも稀なほど優遇策を採っていたことが知られている。しかしそれから20年も経たない昭和期には虐待の事例が目立ち、この「歴史的記憶」はいまなお関係国との間に大きなしこりとなって残っている。なぜ、いつ、近代日本の捕虜処遇は「厚遇」から「冷遇」へと劇的に変化したのか。従来の研究は大正後期から昭和初期(1918年~1930年代)にかけての事例を取り扱っておらず、この問いに答えることができなかった。本研究は、研究史上の欠落期間である(1)シベリア出兵(1918年~1922年)・山東出兵(1927年~1928年)・満州事変(1931年~1933年)における捕虜処遇状況を史料に基 づき実証分析し、(2)近代日本の捕虜処遇をめぐるミッシングリンクの解明を目的としている。 この課題に対して、本年度は捕虜観の変遷について、各自が担当する時代について資料収集、基本文献の読解を行い研究を深めた。これらの調査結果を論文や報告のかたちで成果公表すると共に、対面での研究会ならびに共同調査時、またメール等によって、随時情報交換をおこない、得られた情報と研究進捗の共有を図った。 本研究は令和5年度で最終年度を迎えるが、前年度から、貴志俊彦『アジア太平洋戦争と収容所』(国際書院、2021年)、サラ・コブナー『帝国の虜囚』(みすず書房、2022年)、長與進『チェコスロヴァキア軍団と日本1918‐1920』(教育評論社、2023年)といった関係文献の読解を各自進めており、次年度に合評会を開催することを確認した。
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