研究実績の概要 |
本年度は、研究計画でも言及したBakos and Halaburda (2020,RAND)ほかJeitschko, Jung, and Kim (2017,JEMS)などでも検討されている消費者が単一企業からのみ購入するのではなく複数企業から購入可能な状況に注目して、プラットフォーム事業者の競争について検討した。 想定する市場は、ゲームや動画の制作会社と消費者をつなぐ配信会社が競合する市場が典型例となるが、手始めとして、制作会社の存在は考慮しないで配信会社が競合する市場における価格戦略について検討した。Shiller (2020,IER)は、配信会社のデータ解析能力を踏まえて、精度の高い価格差別の経済効果を定量分析しており、この問題意識を踏襲した理論となっている。消費者が複数企業から購入可能な状況における価格戦略を検討した結果、両企業が精度の高い個別条件提示を行わない状況が存在すること、また、従来の研究成果と異なり、精度の高い個別条件の提示によって競争が促進されるとは限らず、企業利潤を改善させて消費者厚生を損なう可能性があることを示した。これはLu and Matsushima (2023,ISER DP 1192R)として公開した後に、国際学術誌に投稿した。 前述の設定を手がかりとして、制作会社の存在も考慮した設定に拡張することで、プラットフォーム市場の核となる両面性を取り入れた。一般に企業と消費者をつなぐプラットフォーム企業の価格戦略を分析すると消費者を優遇する結果が得られやすいが、消費者側に対して精度の高い個別条件提示ができる場合、消費者側から余剰を吸い上げる傾向が生じうる可能性があることを示せた。この結果は、従来の関連研究と異なる結果であると同時に、競争政策上の意義もある。今後、結果を整理して草稿を公開した上で、国際学術誌に投稿したい。
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