研究課題/領域番号 |
21K18432
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
橋野 知子 神戸大学, 経済学研究科, 教授 (30305411)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 日本化 / 実業練習生 / 在来産業 / 繊維産業 / 織物業 |
研究実績の概要 |
本年度は初年度かつ新型コロナウイルスによる移動規制もあり、予定していた国内外での資料調査やインタビューを延期した。そのことにより、①現在入手可能な資料・データの整理、ならびに②関連文献のサーベイ、③従来研究してきた在来産業における西洋技術の導入や適応過程の解明を中心に進めた。 ①については、国会図書館デジタルコレクションを利用し、1910年~1924年における農商務省海外実業練習生のリストのデータベースづくりに専念した。練習地(実習地)、練習科目(実習科目・産業)がここからわかるので、当時の日本経済・世界経済の変化とともに、これらの変化がどのような傾向にあったのかを検討する必要がある。 ②においては、木山実(2018)が『海外実業練習生一覧』(大正2年)をすでに整理し、他の資料との突き合わせ(例えば学歴)や統合の可能性を示唆しており、本研究でも①のデータをどのように利用できるか、本学図書館を中心に調査した。また、『農商務省商工彙報』(海外実業練習生報告)が、①のデータの前の時代のアネクドータルな史料として利用可能と思われるため、質的な史料をどのように数量データとともに組み合わせていくかを検討した。 ③に関しては、実業練習生を取り巻く産業、とりわけ在来産業が戦前期においてどのように展開したのかについて、繊維産業(製糸業、紡績業、綿織物業、絹織物業)を統合的にサーベイし、西洋技術を要素賦存に即して選択的に導入した点、ならびに適応の努力(=日本化)が見られたことを明らかにした。これらの点は、産業の各部門において従来ばらばらに言われてきたことではあるが、繊維産業全体の特徴として総合的に考察した点が新しいと言えよう(橋野・大塚2021;橋野2022;Hashino and Otsuka 2022)。このような特徴に実業実習生がいかに貢献したのかを明らかにすることが、次の課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
データベースづくりにやや時間を要し十分な考察ができなかったことと、新型コロナウイルスの感染拡大のために、国内外への資料調査が全くできなかったために、当初の予定よりやや遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、2022年度は、上記のデータベースによる分析や質的資料の活用による考察を第一に進め、実業練習生の果たした役割の解明に向けて作業を進めたい。質的な資料としては、神戸大学図書館所蔵の『貿易時報』や『内外商工時報』なども加える。その際、量的な資料と質的な資料をどのように組み合わせて分析に用いるかについては、内外の経済史研究の昨今の動向をサーベイし検討する。また、特に数量分析の専門家からのアドバイスも得たい。 一方で、彼らが実習に向かった先で実際に何を学びそれを「接ぎ木」したのかについては、実習先の資料調査を進めることによって補強する。当初は、リヨン、パリ、ロンドンを計画していたが、今後の状況によっては、調査地を絞るか、あるいは調査地を変える可能性もある。 上記データベースを補強しつつ、海外実業実習生の在来産業の発展における役割を具体化し、論文の骨格を作る作業を今年度中に進める。同時に、国内の同分野の研究者と意見交換するだけでなく、国際学術雑誌(経済史あるいは経営史)への発信のための準備も開始する。 2023年度は、これまでの研究をもとにしてDPを作成し、国内外のセミナーや学会で報告し、批判を仰ぐ。なお、本研究は日本が途上国だった時の「発展戦略」の一つであるため、途上国に対して英語で発信したい。これらを踏まえて、査読付き国際学術雑誌に投稿する。 なお、初年度による遅れを回復すべく今年度以降積極的に研究を進めることが課題であるが、回復が難しい場合は、1年延長することも念頭に入れつつ計画を再度見直し、研究の遂行を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由としては、内外の出張予定がとりやめになったことにある。諸状況を鑑みつつ、今年度に積極的に調査を増やし、研究報告(学会出張)のために利用することで支出する。
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