研究課題/領域番号 |
21K18432
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
橋野 知子 神戸大学, 経済学研究科, 教授 (30305411)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
|
キーワード | 実業練習生 / 在来産業の近代化 / 選択的技術導入 / 繊維産業 / 染織産業 / 経済史と経済学 |
研究実績の概要 |
本年度は、関連する文献を整理しつつ、実業練習生のデータベースの作成を中心に作業を進めた。その一方で、データベースの完成時にどのような分析が可能かを検討を進める途上で、実証経済学における経済史研究のあり方や方法論的課題についても議論を深める機会があった。 実業練習生のデータベース作成が年度の終わりにほぼ終了したことにより、大まかな考察へと進むことができた。その考察の結果については、2023年3月、「農商務省海外実業練習生制度の総合的研究」科研費研究会(代表・関西学院大学・木山実氏)において、報告し議論する機会に恵まれた。途上の研究を報告する機会がこれまでなかったため、資料やデータの整理、分析方法について、専門家の方々から多くの意見が寄せられ、今後の指針を得ることが可能となった。 データベースの作成と同時に、研究の枠組みについて検討を進め、質的なデータベースをいかにして数量(計量)分析できるかという課題を検討しを幅広くサーベイする過程で、経済史研究の方法論についての論考をまとめることができた。その論考では、『次世代の実証経済学』(大塚啓二郎ほか編、日本評論社、近刊)に寄稿し、経済史研究における昨今の方法論の実態や変化、方法論における欧米と日本との比較について論じた。執筆の過程で、経済史のみならず経済学の他分野の研究者達による多面的な視点からのコメントを得ることができた。その結果、本データベースから事実を発見することと同時に、数量化して分かること、さらには可能であれば計量化することが、経済史・経営史のみならず経済学の分野で本研究の理解が深まるという認識を得た。 さらに日本の在来産業の近代化(=「日本化」過程)を相対化するために、リヨン第二大学(Dr. Vernus Pierre, Prof. Manuela Martini)との共同研究を継続し、次年度開催のワークショップのための準備を進めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
正確なデータベースを作成するために、時間がかかった点が挙げられる。また、実業練習生の実習内容・産業に関する情報や滞在先などの分類にも、予想よりも大幅に時間がかかってしまった。ただし、専門家の意見を仰ぐ機会に恵まれたため、課題は克服しつつある。加えて、資料調査についても状況が回復はしてきたが、平時と比較して出張することが簡単ではなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、繊維産業に絞って実業練習生のさまざまな特徴をデータベースから考察していく。その際、先に述べた「農商務省海外実業練習生制度の総合的研究」科研費研究会(代表・関西学院大学・木山実氏)に今後参加できることとなり、また木山氏が作成したデータベースを利用させていただけることになったので、学歴やキャリアパスも念頭において分析を進める。また、他産業に関する実業練習生のあり方についても、研究会を通じて認識を深めていきたい。 当初は、在来産業全体に関してのオーバービューを先に描くことも検討していたが、上記の通り繊維産業における実業実習生の活動にのみ焦点を当て、同時期の産業あるいは産地の動向についても資料・情報収集をしたい。加えて、彼(女)らが実習に向かった先で実際に何を学びそれを「接ぎ木」したのかについては懸案事項であるが、可能であれば実習先の資料調査を進めることによって補強したい。これまでの知見を活かし、調査地の再検討も考える必要がある。 さらに本年度は、海外実業実習生の在来産業の発展における役割やその実態を明らかにしたディスカッションペーパーを作成し、まずは国内の学会で報告し、日本語で論文を作成する。その上で、数量的・計量的分析のための作業も進め、国際学術雑誌への英語での発信に向けて考察や準備も進める。 また、日本の在来産業の近代化を相対化するために、リヨン第二大学(Dr. Vernus PierreならびにProf. Dr. Manuela Martini)との共同研究を続行し、具体的にはリヨンから京都に、長期的にいかにして染織の技術や知識(特に絹)が導入されたのかを日仏両方から考察を進めている。2023年度には、より大きな枠組みで、共同研究の成果が出を出せるよう密に連携する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
前年度には国内外での調査が全くできなかったこと、また2022年度になって海外での調査がようやくできるようになったとはいえ、二回の予定が一回となったことが大きい。平時と比べて内外への出張は、簡単ではなかった。ただし、2023年度は移動制限も解けたことから、内外での調査や研究報告に支出する予定である。また、データ整理を精力的に進めるためにも、次年度に支出するつもりである。
|