リスク選好・時間選好・社会的選好・認知能力に関するこれまでの研究を総合し、これらの選好の特徴を統一的にとらえることのできる意思決定の総合理論を開発することを目的とした実験室実験を行い、その成果である論文は『行動経済学』誌に掲載された。 実験の主たる目的は、「属性間の独立性」が成り立つかどうかを検証することにあった。例えば、リスク選好と時間選好が関わる問題で、現時点で確実に1000円を受け取ることを50%の確率で1万円を受け取るくじより好む人は、3か月であっても1000円を受け取ることを好むというように、一方の属性の変化が他方の属性に関する選好には変化をもたらさないというのがその定義であるが、実験ではリスク選好と時間選好、リスク選好と社会的選好の間に有意な相関が見られた。そのため、リスク選好・時間選好・社会的選好・認知能力を個別に測定した場合の相関関係とは異なる相関関係が、これら3者を統合した新しい効用関数を定義した場合には観察されることが明らかになった。 また、「属性間の独立性」と関連が深い「選好の安定性」とは、ある時点で測定された選好と別の時点で測定されたものとの間には著しい違いが見られるという現象であるが、こちらについては、最近研究が進んでいる「無知の認識 unawareness」という概念によってモデル化できることがわかった。そのモデル化に従い、予期せぬショックがあった場合に選好が変化するかどうかについての実験室実験を実施し、従来の実証研究とは異なり、ショックの前後で選好が変化するという仮説は検証されなかった。その成果を行動経済学会において発表した。現在、その内容を論文にまとめ、『行動経済学』誌に投稿する準備が進んでいる。 行動経済学上の発見について再現性がないという「行動経済学の死」問題については、集英社新書から『行動経済学の真実』というタイトルを書籍化する計画が進んでいる。
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