前年度までの研究では、所有者不明土地(家屋)を予測するためのリスクファクターについて考察し、条件別に空き家化する確率を求め、地方ごとの傾向等について整理した。 現実社会では2024年4月から相続登記の申請が義務化され、今後不明となるリスクが減少する可能性があると言われている。だが、当該制度は土地所有者の明確化にすぎず、国庫帰属に関してもモラルハザードを招く可能性がある。「裁判所 省庁別財務書類(2022年度)」によると、相続人不存在のため国庫帰属となった相続財産は約770億円で、2006年度と比べると3.5倍に迫る勢いである。近年の、生涯未婚率の上昇や完結出生児数の低下(一人っ子の増加)傾向も考慮すると、「不存在」の問題は深刻化する可能性があり、引き続き研究を進める必要がある。 このような中長期、超長期的課題を念頭に、最終年度は、空き家の発生抑制の取り組みに焦点を絞り、特に母体となる地域組織について調査した。具体的には、「小さな拠点」とそのための「地域運営組織」である。不動産や建設関係者や司法書士等と連携し、空き家調査や相談会の実施、利活用促進のための取り組みを行う組織もあった 。組織の運営母体が町内会など地縁型のものは遂行能力が高いが、専門性や後継者の不足が課題であることが伺えた。一方でNPOや株式会社化された組織は、事務局体制等が整っており収益化できている一方で、収益を見込みづらい社会課題の解決には繋がりにくい。公的支援に関しては、地方公共団体による財政的な補助や職員配置、組織立ち上げのためのタウンミーティング開催を主導する地域もあった。当該組織は内閣府や総務省、農村RMOに関しては農林水産省が主に推進しているが、厚生労働省や国土交通省なども財政・情報・人材支援を行っている。ただし、各々の情報連携については不透明である点が見られ、効果検証等を行いにくい現状が見られた。
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