研究課題/領域番号 |
21K18442
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
渡邉 真理子 学習院大学, 経済学部, 教授 (10466063)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 国有、民営外資の混合市場 / 公的支援および規制の競争中立性 / 半導体産業 / 鉄鋼産業 / 構造推定 / 中国経済 |
研究実績の概要 |
制度の効果を推定するためには、(1)制度に関する精査とそれをモデル化した計量分析を行った。(2)制度分析・市場分析のために収集した情報を政策に貢献するための論考も行った。 (1)中国の産業における公的支援のと規制の影響の推定 中国政府による産業への規制と支援が競争歪曲的であるという非難が欧米から相次いでいる。こうした規制が市場の競争を歪めているかを評価するための分析を行っている。中国の現実の制度の枠組みに即してより精確な影響を計測するために、需要者の行動、供給者の行動、それに政府の介入を明示的に定式化した構造推定を行った。特に、中国の制度と政策を精査し、政府の行動をより精確に組み込むことに本研究の特徴がある。 具体的には、鉄鋼産業に関する補助金による歪曲効果の推定とスマートフォン半導体産業における規制と補助の効果の推定を行った。分析の詳細については、現在までの進捗状況で詳述する。 (2)制度情報の研究をもとにした政策ブリーフィング用の分析は以下のとおりである。 ①渡邉真理子・加茂具樹・川島富士雄・川瀬剛志「中国のCPTPP参加意表明関する考察」RIETI ポリシーディスカッションペーパー、2021年9月11日。②国際経済推進センター「ガバメントアクセスをめぐるルール形成」報告書、2022年2月1日。③渡邉真理子「中国のデータガバナンス:データ取引市場の推進と国家安全の強化」RIETI ディスカッションペーパー、2022年4月出版予定。④木村福成・西脇編 タイトル未定 渡邉担当章「中国の「異質な」経済体制と通商ルール:実効性のある規律づけはできるのか」勁草書房2022年6月出版予定
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)中国の鉄鋼産業分析。補助金および国有企業優遇政策が、ゾンビ企業を救済し、過剰生産を誘引したという仮説について、同質財で数量競争(クールノー競争)を想定した需要関数と補助金による救済が行われる可能性のある供給関数による構造推定を行った。上場企業の財務情報から救済された企業を定義し、生産量決定行動を定式化した。先行研究では、実際には補助金の情報を用いず、定数項の調整で効果を推定することが多いが、本研究では現実の補助金と営業収益の関係を取り込むことで、中国の現実をより直接的に表現し構造に繰り込むことができ、より正確な政策シミュレーションが可能になった。誘導系推定で、補助金、営業収益と生産量の決定に関して誘導形でデータの間の相関関係を確認し、その後構造推定をもとにした仮想現実シミュレーションを行った。過剰生産は、中堅規模の国有企業への救済によって誘発され、最大4割増の拡大をもたらしたことが確認できた。 (2)中国のスマートフォン用半導体産業分析。科研費・挑戦的研究(萌芽)の前倒し支出により、データ入手が完了し分析を開始することができた。2015年に中国の競争法当局が他の競争法当局と連動するかたちで実施した米クアルコム社の持つ標準必須特許の契約メカニズムが、スマートフォン用半導体市場にどういう影響を与えたのかの分析を行った。2015年に介入が起こった前後のスマートフォンの開発品種点数、価格、数量への影響を非連続回帰推定、差と差の推定を行った。介入の恩恵を受けた非クアルコムの半導体設計会社の既存のモデルの販売数量が即時に増加し、当該半導体が搭載されるスマートフォンモデルの開発点数は2年後から増加した。経済産業研究所グローバルインテリジェンスプロジェクトにおいて「中国政府の支援と規制の競争中立性:中国スマートフォン市場での競争政策介入の事例」報告を行った。
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今後の研究の推進方策 |
鉄鋼産業論文に関しては、完成し分析作業はほぼ完了した。論文執筆を完成させ、最終チェックのあと、投稿するというプロセスを進めている。また、2022年ウィーンで行われる欧州産業経済学会(EARIE2022)での報告も決まっている。
スマートフォン半導体論文に関しては、誘導形推定で確認できた大まかな規制の影響をより精確に推定するため、構造推定を行う。需要推定と供給行動の推定のための、操作変数の構築、コードの記述を行っている。
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