本研究は、女性作曲家として日本で初めて本格的な交響曲を作曲した人物である金井喜久子(1906-1986)の活動に関する未整理・未発表の資料群を整理し、情報を分析することによって、金井喜久子の事績を実証的に明らかにすることを目的とする。 沖縄県宮古島出身の金井喜久子は、1930年代から1980年代までの約50年の間、沖縄諸島・宮古諸島・八重山諸島の音楽をモティーフとして、交響曲・舞台音楽・映画音楽・歌曲・器楽曲・合唱曲などの多様なジャンルの作品を残した。また、琉球諸島の民族音楽の体系的研究の必要性から、民謡の現地調査・採譜等をおこない、その成果を『琉球の民謡』(1954年、音楽之友社)として出版した。琉球諸島の音楽の諸要素を西洋音楽の手法で捉えなおし、継続的に創作活動に取り組んで自身の作曲法を発展させた、おそらく最初の作曲家と考えらえる。しかし、金井に関する先行研究は質・量ともに極めて乏しく、実証的な研究に裏付けられた作品リストさえ作成されていないのが現状である。 こうした状況を鑑み、金井のご遺族のご了解を得て、本研究によってご遺族宅に保管されている関係資料の悉皆調査を初めて実施した。①楽譜(自筆譜・浄書譜):約1730件、②楽譜以外の文書資料(演奏会関係資料・民謡研究の原稿草稿・書簡等):約340件、③演奏会等の写真:125件、④演奏会や民謡調査の録音テープ等:約100件、などの資料を確認し、目録化することができた。これにより、金井の音楽活動を実証的かつ総合的に再構築・再評価する研究の基盤を整えることができた。また、悉皆調査により、音楽テープや、酸性紙の文書資料・自筆楽譜の劣化抑制対策が急務であることが判明したため、音楽テープのデジタル化のほか、変色・変形・破損等、劣化が進行しているテキスト資料・自筆楽譜について、適切な保存箱等への収納を進めた。
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