研究課題/領域番号 |
21K18477
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
打越 正貴 茨城大学, 教育学研究科, 教授 (10764970)
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研究分担者 |
宮本 浩紀 茨城大学, 教育学部, 助教 (00737918)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 知識 / 経験 / 学習 / 思考 / 理解 / イメージ / 言葉 |
研究実績の概要 |
本研究の全体的な目的は、思考活動の際に働く言語とイメージの統合促進を目指して、学習方略“色と形”を活用した思考過程の可視化とその質的分析を行うことにある。初年度の研究の主たる射程は、言語学・学習科学に基づく学習方略の理論的基盤の確立にあった。具体的には、当該分野の関連文献を紐解き、先行研究の進捗を整理することにより、本研究が解明を目指す思考活動における言語とイメージの関係把握の意義を再確認することを目指した。 その研究実績については、特に、「色と形」の理論的基盤を成す「言語(言葉)」、「イメージ」、「知識」、「経験」の諸関係について整理できたことに認められる。特に、学校教育において獲得が目指される「知識」と「経験」が相互に関わり合っていることについて独自のモデルを構想できたことは大きな成果であった(海面に浮かぶ学力観に示唆を得つつ作成した学習モデル)。具体的には、「知識」を“客観的”、「経験」を“主観的”とみなす立場が強い学校教育において、実際にはそれぞれに両側面が見出されることを踏まえた上で、両者が相互作用的に関わる授業づくりの必要性を確認するに至った。通常、子どもの主観的な印象あるいは個別の「経験」からスタートする学習は、客観的な学びとみなすことが難しいという課題が見出されてきた。そのため、子どもは日々学ぶ「知識」を自らの印象や経験とどこか離れたものとして獲得していくことが危惧されるのであるが、本研究は認知科学の研究成果を基に、むしろ主観をベースにした学習モデルを構想するという形でその課題への対処を試みてきた。その際キーワードとしたものが「イメージ」である。今年度の研究は、主観と客観の混合体(あるいは両者が未分化の形態)を成す「イメージ」を子どもの学習の基盤に据えることで、両者の分離を避ける学習を構想するものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は当初の計画以上に進展しているものと考えている。そのような判断がなされるに至った要因としては、次の2点があげられる。 まず第一に、「言語(言葉)」、「イメージ」、「知識」、「経験」を中心概念とする学習モデルを構想することができたことにある。まだ暫定版であるとはいえ、海面に浮かぶ学力から示唆を得る形で各概念の諸関係を図式化することができたことは、本研究に携わる我々自身は言うまでもなく、適宜助言をいただいている他の研究者や大学院生に対しても学習方略“色と形”の方法論について示しやすくなった。さらに言うならば、学校現場との結びつきを基盤として、授業実践を行ってくださる現場の先生方と共に研究を進めている本研究において、その目指すところを可視化し得たことは効果的な授業づくりの点において大変大きな収穫が得られた。 続いて第二に、本研究は研究計画書を作成した段階で茨城県守谷市立御所ケ丘小学校に協力を仰ぎ、研究及び授業実践を進めてきたわけであるが、そこにさらに茨城県内の各市町村ではたらく先生方の協力をいただけることになったことがあげられる。すでに御所ケ丘小学校においては10ほどの実践授業を通して、本学習方略の意義と課題について示唆を得てきたが、そこにさらに学校環境の異なる他校の実践を加えることができたことにより、本研究は学習方略の効果検証の点で大きな下支えを獲得することになった。具体的には、牛久市、水戸市、神栖市の三市において、若手教員3名、中堅教員1名の協力が得られた次第である。そのように、経験年数を異にする教員の実践を通して、本学習方略の効果が幅広く検証される状況が生まれたことは大変意義深いものであった。児童生徒の学習成果も予定した以上に集まったことを踏まえるならば、当該年度の研究の進捗は予想を超えるものであったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の今後の推進の方策については、概ね次の2つを想定している。 まず第一に、2年目は、さらに本研究に協力いただく学校を増やすことに取り組んでいる。すでに茨城県内の学校に勤務する2名の教員から承諾を得ているところであるが、特に新たな研究成果の獲得が期待される点として、学校種の増加をあげておきたい。これまでは小学校に勤務する教員に協力を仰いできたが、ここに至り、中学校の教員に許可をいただくことができたことは大変意義深い。というのも、小学校と中学校の学習を比較した場合、後者の方が子どもたちに獲得が期待される知識・理解の総量はやはり大きく、そのような状況においてこそ、子どもたちの学習意欲を高める本学習方略の効果が確認できると考えるからである。以上のように、次第に研究実践校は増えつつあるとはいえ、これに満足せず、さらに本学習方略の効果を検証すべく、協力いただける学校を増やし、多種多様な子どもたちの学習状況の整理に努めていく所存である。 続いて第二に、上記の点と重なる課題として、教科ごとに本学習方略活用のポイントが異なることを想定している。これまでは主に国語や社会や道徳といったいわゆる文化系科目における諸実践を積み重ねてきたが、①それらの中でも活用の主旨や手立てを変える必要があることが想定されること、②さらに理科や算数・数学といったいわゆる理数系科目における活用可能性について探究すること、以上の点に関する深化を図っていきたい。現在抱いている展望としては、いずれの教科であろうとも、子どもの学びはある特定の「イメージ」として獲得・形成・生成されるはずであるという仮説の下に、学校におけるほぼすべての教育活動において本学習方略を活用することを目指している。子ども学習状況の可視化に本学習方略が有効であることを確認すべく、今年度は教科ごとの効果検証も含めて、研究成果の獲得をより細密に行っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画書作成時点においては、①学会参加・発表における渡航費、②研究実践校への交通費、③人件費以上3点を計上していた。だが新型コロナウィルス感染症の拡大により、①については全面的に実施できず、②については、回数を制限しての実施になり、③については、②が限定的な実施になったために授業映像記録の文字起こしなどの業務依頼を学生その他に行うことができず、以上3点について当初予定していた使用額を次年度に繰り越さなければならなくなった。未使用額については、令和4年度に実施する学会参加・発表における渡航費(①)、研究実践校への出張旅費(②)、研究実践記録の整理依頼(③)として使用することを計画している。
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