研究課題/領域番号 |
21K18477
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
打越 正貴 茨城大学, 教育学研究科, 教授 (10764970)
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研究分担者 |
宮本 浩紀 茨城大学, 教育学部, 助教 (00737918)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | イメージ / 言葉 / 経験 / 知識 / 思考指導 / 思考ツール / 可視化 |
研究実績の概要 |
2022(令和4)年度における本研究の主たる目的は、「子どもの思考・理解は言語とイメージの統合に基づいて進展する」という仮説に基づき、子どもの学習モデルを構築することにあった。 以上を柱とする研究を行った結果、当初の研究計画に沿う形で、学習モデルの構築に取り組むことが出来た。特に、「言葉」、「イメージ」、「経験」、「知識」という本研究の核をなす四つのキーワードを一つの図の形式で構想することができたことにより、本研究が解明を目指す子どもの思考・理解がどのようなものであるかについて、その全容解明への糸口が得られた。そもそも、「思考とは何か」「理解とは何か」という問題は、各研究論文、書籍、事典等において微妙なずれがある。要するに、多様な思考観・理解観の中で本研究がどのような立ち位置にあるかについて決定することが肝要であった中で、今年度、それが確認できたのが最大の成果であった。 より具体的にいうならば、言葉とイメージの異同が把握できたこと、経験や知識はどのようにして子どもの思考・理解に反映されるかについて整理できたこと、そして、本研究が中核に据える「色と形」という学習の手立てがそれら言葉・イメージ・経験・知識を表現することにどのように関与しているのかについて把握できたことに成果を見出している。 以上取り上げた点については、2022(令和4)年9月に出版した、打越正貴・宮本浩紀(編著)『思考が深まる!対話が生まれる! イメージからことばをひきだす「色と形」の授業づくりアイデアー小学校 中学校「主体的・対話的で深い学び」子どもの学びが見える14の実践ー』(株式会社PUBFUN)のうち、特に「色と形」の学習モデルを示した頁(同書、pp.16-19)に記した通りである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022(令和4)年度は、「色と形」の学習モデルの構築を中心に研究を進めた。同モデルの構築に際しては、茨城県内各小・中学校ではたらく先生方に協力を仰ぎ、まず「色と形」を活用しやすい教科・領域の確定を行うことから研究を開始した。結果的に小学校では、国語、理科、社会、音楽、道徳の五つの教科・領域において、中学校では、国語、社会、道徳、特別活動の四つの教科・領域において「色と形」を活用した授業実践を行うことができた。研究代表者がかつて授業実践を行ったのが社会と道徳と特別活動の三つであったことを踏まえるならば、「色と形」を活用し得る教科・領域に大幅な拡大がみられたことは、本学習方法の可能性を知る上で真に有意義であった。 さらに、元々研究計画策定時に予定していた「色と形」の効果把握に関しても多大な示唆が得られた。特に、子どもが自らの思いや考えを文章の形で表す際に、文章作成能力や学力の多様な在り方の影響を超えて、子どもの奥底にある思いが可視化されたことには大変驚いた。具体的にいうと、小学校の理科の実践で認められた当該児童の学びは、「色と形」を活用することで、日頃の授業において、言葉ではなかなか自分の思いや考えを表すことが難しい子どもでも、当人の感情や感覚が多彩な色使いで可視化され得ることを知らしめてくれた。 以上の通り、各教科・領域において、合わせて数十人の児童・生徒の学びの様子を確認できたことをもって、「おおむね順調に推移している」という自己評価をつけることにした。現状、「色と形」の効果の検証を行う授業実践は、当初予定していた分を十分こなすことができているため、大きな変更は必要ないものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度に当たる2023(令和5)年度は、主として、次の点の達成を目指している。 それは、「色と形」という学習方法を活用する際の課題を把握することである。一応のところ、これまでの研究において、本学習方法を活用するための三つのパターンを見出すことができている。具体的には、本学習方法を活用するタイミング別に、①「色と形」を単元・授業の冒頭とまとめ(終末)において活用するもの、②「色と形」を単元・授業の冒頭において活用するもの、③「色と形」を単元・授業のまとめ(終末)において活用するもの、の三種があり得ることが見出されている。上述の、2022(令和4)年9月に出版した、打越正貴・宮本浩紀(編著)『思考が深まる!対話が生まれる! イメージからことばをひきだす「色と形」の授業づくりアイデア』(株式会社PUBFUN)においては、主に15頁でそれぞれの用途について説明を付してあるが、実際に授業づくり・授業実践に関わった先生方のお話を踏まえると、その使い分けに関しては未解明のところが多い。 中でも現段階で注目しているのは、「色と形」を活用しやすい教科とそうでない教科・単元の整理が行えるのではないかという点である。これまでの2年間は、本学習方法の可能性を探究するために、授業実践いただく教科・領域をできるだけ広く設定することを目指してきたものの、そのような方針が本当に学校現場の実態や子どもの学びに即したものであるかどうかについて検討することが求められているといえる。 ただし、残り1年間という研究期間の中で「色と形」を活用しやすい教科・領域を網羅的に把握するのは目標が遠大すぎるため、すでに実施協力いただいた教科・領域を対象に活用のしやすさを確認することを目指すこととしたい。その際は、再度授業実践に協力いただけるよう、調整を図ることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画書作成時点においては、①学会参加・発表における渡航費、②研究実践校への交通費、③人件費以上三点を計上していた。だが、引き続き、新型コロナウィルス感染症の拡大により、①についてはオンライン開催への変更により渡航回数が予定に達せず、②については、回数を制限しての実施になり、③については、②が限定的な実施になったために授業映像記録の文字起こしなどの業務依頼を学生その他に行うことができず、以上三点について当初予定していた使用額を次年度に繰り越さなければならなくなった。未使用額については、令和5年度に実施する学会参加・発表における渡航費(①)、研究実践校への出張旅費(②)、研究実践記録の整理依頼(③)として使用することを計画している。
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