本研究は、思考活動で働く言語とイメージの統合促進を目指し、学習方略“色と形”を活用した思考過程の可視化とその質的分析を行うものである。その主たる検討課題は、「文章記述は子どもの思考内容を可視化し得ているのか」という点にある。従来活用されてきた思考ツールは知識の整理や想起に焦点化され、他者による把握が難しい経験が思考過程に果たす役割については研究・実践の余地が残されている。本研究はその点の進捗を企図したものである。 2023年度は、特に、以下の二つの切り口で論文・著書を執筆した。一つは、すべての子どもが“表現しにくい思いや考え”を捉え、それをもとに思考内容の言語化を促す“思考指導のユニバーサル・デザイン”の実現を図るものである。具体的には、打越正貴・宮本浩紀・武藤裕子他「特別支援学級児における言語上の学習障壁の解消―ヴィゴツキー理論に基づくイメージを活用した思考と言葉の接合―」を執筆した。特別支援教育を受ける子どもたちに加えて、その教育に関わる先生方と同方法について検討を重ねることができたことにより、子どもたちの思考が可視化されやすい学級の雰囲気について把握することができた。 もう一つは、同方法を活用した授業づくりのまとめを図るものである。種々の論文・著書を執筆した中、主要なものとして、打越正貴・宮本浩紀『ことばをひきだす授業論―「色と形」で子どものアタマとココロが見えてくる―』があげられる。同書では、同方法の効果について紹介するだけでなく、逆に、その効果があがらない場合を見据えての授業づくり自体への考察も行った。特に、授業のどこをみればいいのかどうかについて、子ども・教師・教材等の各視点のポイントを提示することを心がけた。 以上のように、2023年度の成果は、学習方略“色と形”が効果的に活用される基盤づくりについて検討できた点に見出される。
|