研究課題/領域番号 |
21K18505
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
東田 学 大阪大学, サイバーメディアセンター, 講師 (40263339)
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研究分担者 |
白井 詩沙香 大阪大学, サイバーメディアセンター, 講師 (30757430)
上田 真由美 流通科学大学, 経済学部, 教授 (30402407)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | プログラミング教育 / STEM教育 / ユーザ体験 / リメディアル教育 / 高大接続 |
研究実績の概要 |
理系・文系分野を問わず、数理科学を情報学と融合したデータ・サイエンス教育の強化が求められている。一方で、コロナ禍を通して、授業形態のあり方が改めて問われている。 本研究は、高大接続に際して、初等・中等教育における学習内容をプログラミング学習を通じてリメディアル教育として再獲得すると同時に、リベラル・アーツ教育として体系化すること、さらに、プログラミング技能を高等教育や就業時に求められるアカデミック・スキルとして獲得することを目標としている。そのための授業開発および学習支援環境の構築に挑戦している。 【学習コース開発】 まず、1970 年代に情報教育における構築主義として提唱され、オブジェクト指向型プログラミングの源流となった同調的対象 (object-to-think-with) という概念を発展させ、プログラミングによって同調的に学習対象を操作できるデザイン・テンプレートを開発している。さらに、テンプレートからインスタンス化した学習項目を初等・中等教育における算数・数学や理科の学習過程や科学史の発展に沿って系統化することで実践的なプログラミング学習コースを作成している。 【学習支援環境構築】 同時に、開発する学習コースを対面や遠隔、その融合など様々な授業形態で活用するために、SNSを模したユーザ・インターフェイスを有し複数の学生と対話可能な分散・共有型のプログラミング・ノートブックを開発している。UI が固定した既存のプログラミング学習支援環境では得られないコンテンツと UI の相乗効果による学習効果の向上を目指している。 【学習アクテビティ分析】 並行して、提案する手法が対象とする様々な授業形態で実践を通じた評価を行い、特に、対面・遠隔形態が融合する授業での有用性を評価し、提案手法を随時改善をおこなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【学習コース開発】本研究に先立って、2020年度から大阪大学における初年次ゼミナール「学問への扉」において、「プログラミングで遡る科学史」を開講している。この講義では、1980年代から先駆的に一貫してノートブック形式による対話型プログラミング環境を提供してきた数式処理システムMathematicaを採用した。Mathematicaが提供する潤沢な数式処理ライブラリを活用し、教科書の静的な記述をプログラミングによる動的な記述に書き換えて受講生に提示することが可能となった。一方で、MathematicaがLispを起源とすることに伴う独特なオブジェクト化機能が制約となり、受講生にプログラミングを伝える際に「Mathematicaで記述してみたらこうなった」という以上に知的好奇心を伝えることは難しいと判断している。この評価を踏まえて、これまで蓄積した講義配布資料を、類型的なオブジェクト指向型プログラミングが可能なPythonへ移植することでプログラミングの操作対象を明確にし、受講生のプログラミングに際する没入度の向上への寄与を検証している。 【学習支援環境構築】国内外の先行事例を改めて調査し、特に、米国カリフォルニア大学バークレイ校におけるデータ・サイエンスの高等教育機関初年次教育に着目した。同校では、2015年からJupyterHubを中核とした対話型プログラミング環境の整備を始め、これまでに導入や運用に必要な知見を公開している。並行して、プログラミング実行が可能な教科書の整備を行っており、2018年からJupyter Book形式で公開している。本研究では、これらの先行事例を分析し、同等の環境を構築し実授業での評価を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
【学習支援環境構築】講師と受講者が逐次的にプログラミング実行の入出力を共有するためのユーザ・インターフェイスの開発に取り組む。当初は、nteractが提供するセル・バイ・セル形式の開発ツールを活用する予定であったが、先行するUCBの事例を精査し、Jupyter Book形式のプログラミング・インターフェイスの一つであるThebeを活用し、教科書へ講師と受講生のワークスペースを並列してを埋め込む形式での対話インターフェイスの開発を行う。 【学習アクテビティ分析】 対話型プログラミング学習支援環境に、適宜的および事後的な学習解析が可能なデータ記録機構を導入する。講師が配付資料で提供した模範コードを受講生がどのように実行したかを追跡する。具体的には、配付資料のダウンロード、配付資料に記載された模範コードの実行、実行に際する受講生による改変や、それに伴って発生したエラーの種別やエラー発生箇所などをすべて記録する。並行して、授業実施時に講師が受講生のプログラムの実行状況やエラーの発生を一瞥し判読できるダッシュボードの開発を進める。授業時のアクティビティ記録の解析に際して、講師が提示する模範コードと受講生の試行コードとの改変度合いを定量評価するための解析ツールを研究・開発する。さらに、この定量化されたデータを時系列解析し、受講生の授業への集中度を評価するための解析手法の研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時はサーバ機器などの物品購入を行う予定であったが、サーバ機器上で行う予定であった活動をクラウド上へ移行したため、研究開始時に集中的な購入を行うのではなく、研究期間中のクラウド・サービス利用料へ平準化したため。
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