研究課題/領域番号 |
21K18545
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研究機関 | 久留米工業高等専門学校 |
研究代表者 |
越地 尚宏 久留米工業高等専門学校, 電気電子工学科, 教授 (90234749)
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研究分担者 |
辻 豊 久留米工業高等専門学校, 生物応用化学科, 教授 (40197687)
森 保仁 佐世保工業高等専門学校, 基幹教育科, 教授 (80243898)
山口 崇 久留米工業高等専門学校, 電気電子工学科, 教授 (90248344)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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キーワード | withコロナ新時代 / 双方向実験ノート / 学生実験 / 科学リテラシー / アクティブラーニング / リアルタイム情報共有 / KYシート |
研究実績の概要 |
今年度は本校電気電子工学科4年生対象(大学1年相当)の『電気電子実験2』(通年科目)にて本研究を実施した。その中で特に以下の3つの柱に注力した。(1)理工系高等教育機関における「学生実験や実習」(以下「学生実験」)技術者や科学者の卵である学生に対して「対象分野の知見や法則等の、実験を通しての習得が目的」であり、その意味で本質的に「作業的、則ちルーティンワーク的側面」を持つ。さて技術者のフィールドである工場等では起こりうるトラブルを事前に想定し整理する「KYシート」(危険予知シート)が活用されている。それに倣い「想定外のことが起こる時代に対応できる技術者」としての発想や姿勢涵養のため「実験時どのようなことが起こり、その対処のためにどのような準備や心構えが必要かを想定し準備する『事前準備用シート』等の作成とそれをグループでまとめる作業を課し能動的な姿勢の涵養とした。 (2)コロナは5月に「5類感染症」になったが電気電子実験はグループ実験であり、年度前半は慎重を期してソーシャルディスタンスを保つグループ分けの下、実験を行った。実験グループを『実験室で実験を行うチーム』と『別室で作業行う分析析指示グループ』に分け、その間を『遠隔コミュニケーション支援システムであるMicrosoft Teams 』で繋げるリモート実験を実施した。年度後半は対面実験としたが、リモート実験で得られたノウハウを活かし、Teams等のICTツールを積極的に活用しデーターの共有や分析等を行い、将来的な人手不足も相まって今後普及が予想される遠隔連携作業の訓練と同時に「簡潔かつ正確なコミュニケーション技法の習得の場」とした。 (3)Teamsの掲示板機能を用いて指導者⇔学生間のリアルタイムの情報共有の場とし多様な情報共有を行った。特に実験進捗のリアルタイムの把握は従来得られなかった価値ある情報と考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は体験を通した法則理解や技法習得を目的に理工系高等教育機関で実施されている『学生実験』に関し、従来重視していなかった「実験ノート指導」を核とした系統的かつ効率的な指導法について実践を通して探査し、同時に学生にとって受動的な学生実験の視点を180°変えることによって、従来の学生実験をPBL及びアクティブラーニング的視点を備えた論理思考や問題意識を伴うリテラシーの涵養を目指すものである。その実践の両輪として『①紙のノート等の記載を中心とするアナログ的取り組み』と、『②リモートワークも含めたICT活用のデジタル的アプローチ』の比較検討を研究の主軸に据えた。①に関しては工場等で採用している「KYシート」に着想を得た『事前準備用シート』等を採用し学生のPBL的観点の育成を目指した。②は現代の学生との親和性も高く、またR5年度前半期はコロナの影響も残っていることから、リモートでつないだ実験班と指示分析班にわけMicrosoft Teamsを通して繋げることによりソーシャルディスタンスを担保しながら実施した。そしてこれらの実践を通してデジタル的アプローチの多くのノウハウを得ることができた。さらにTeamsを用いて、実験遂行時に学生⇔教員及び学生⇔学生間のリアルタイムの情報共有を可能にすることで、アクティブラーニングの実践の場にする新たな着想を得ることが出来た。特に学生が実験の進捗を適宜アップすることで従来のレポート報告のみでは教員が把握できなかった実験のリアルタイムの進捗を把握でき、教員が学生の実験遂行や理解度等の重要な情報を得ることが出来る等、指導者側が「実験テーマや内容の設計や検討に資する新たな知見」を得る有効な手段となりうることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は『Withコロナ新時代のアナログ手法とICTを活用した課題解決型実験ノート指導』と題して、①コロナ下でのリモートを含むICT活用の下、急速かつ爆発的な進化及び深化が進んだデジタル的アプローチと、②(一見旧来的と捉えがちな)アナログ的アプローチの有効性を再検討することで、デジタルとアナログの融合を通してSociety5.0の(予測不可能な)新時代を切り開く技術者としての学生の養成を、学生実験における「実験ノート」を課題解決型ツールとして再定義し、ノート及び付随する各種手法を開発することで「学生実験をPBLやアクティブラーニングの舞台」とする研究である。①のデジタルアプローチとしては前述のMicrosoft Teamsに代表されるICT技術を活用した遠隔実験手法を取り入れることで、ソーシャルディスタンスと実験の遂行という、相反した事象を結びつける契機とした。コロナ禍は2023年5月に「第5類分類」という一応の終息をみたが、リモート技術やクラウドにおけるデジタル処理等は、今後人材不足という背景の下、普及することが予想されるリモート作業に関しての実践的な知見の収集に資することができる。②のアナログ的なアプローチに関しては紙のノートや事前予知シートや振り返りシートを用いて、学生の習熟度に応じた理工系学生の持つべき資質としての自発的問題意識の涵養と課題解決力の育成を図る。さらに過去3年の実績を経て多くの知見や学生の意見を得、さらに成果を発表した国際会議等において内外の教育研究者の意見を伺うことができた。今年度はそれをふまえ従来の蓄積を元に更なる効率的な運用を試みるとともに、ICTの持つ速報性や情報共有性を活かし指導者⇔学生間のリアルタイムの情報共有を深化させる。これらの総合的取り組みによりアナログとデジタル双方の特色を効率的に融合させ新時代の技術者の養成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
かなり改善されたものの全世界的な半導体不足が継続し『ICT機器を活用したデジタル的アプローチ』に使用予定の機器が購入不可の状況が生じ同分野の研究の深化が叶わなかった。そこで研究手法として『実験ノートや各種シート等の運用を行うアナログ的アプローチ』に注力した。これらは予算を使わない研究手段であり次年度使用額が生じた。次年度は以下の4点を重点に予算執行を行う。 (1)4年生の『電気電子実験2』を対象に実験ノートを核とした取り組みを行い、関連の物品購入を行う。(2)ICTやデジタル化技術を積極的に活用し実験ノートやレポート、各種評価や報告等のDX化に取り組むと同時に『遠隔でのコミュニケーション』を学生実験に最適化できるようなシステム構築と効果の検証を行う。その際は遠隔で機器を動作させるようなシステムの採用も検討中である(3)高専や大学等を対象に実践事例の調査を行う。その際、特徴ある取り組み等に対しては旅費を利用し調査を予定。(4)(2023年度も参加したが)2024年度開催の国際工学教育研究集会(International Symposium onAdvances in Technology Education (ISATE)にて発表予定(abstruct審査の段階でアクセプト済み)。内外の研究者との意見交換を行う。また日工協等の学会や研究集会に参加し意見交換や情報の収集を行う
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