令和5年度(2023年度)は、カナダ国ブリティッシュコロンビア州在住の日本ルーツを持つ成人7名(Cis-Female 7名)を対象として対面面接(研究協力者が希望する場合はオンライン面接)を行い、子のADHD症状、学業や対人関係等の生活機能、衝動性を示すエピソード、および行動力を示すエピソードについて聴取した。1人の研究協力者につき60~120分の面接が1回実施され、聴取内容は録音された。逐語データは、修正版グラウンデッドセオリーアプローチによって分析され、概念、カテゴリー等に整理された。その結果、「衝動性」と「行動力」は、行動の形態や反応潜時の短さ、熟慮不足といった従来の定義では区別されておらず、「他者の人権の保護(例:他者の生命や尊厳を守る)」が動機であり、かつ、それ自体が他者の人権を侵害しないと認識された行動は行動力の表れ、そうでない行動は衝動性の表れとして語られることがモデル化された。日本とカナダの子育て・教育における差異については研究協力者7名全員から言及があり、日本においては社会正義のために児童生徒が自らデモ活動を呼び掛けることは衝動性に含まれるがブリティッシュコロンビア州では行動力だと認識されるなど、日本の方が行動力を狭く定義する文化があるのではないか(その狭い定義の中で多くの行動を行うので行動力の総量は日本とカナダで変わらないかもしれない)と語られた。以上のように、日本とカナダの両方の文化をもつ成人を対象として、現地の資料や場所を参照しながら面接を行うことで、情報と示唆に富むモデルを構築することができた。
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