研究課題
いじめは、親しくしていた仲間から攻撃を受けたり、仲間はずれにされることである。他者を「攻撃対象」(=非人間)と見なすには、表象の書き換え、すなわち投射(projection)が必要である。攻撃・排斥される側にはどのような心理的・身体的変化が生じるだろうか。実験参加者がほかの二名がPC越しにキャッチボールをし、途中からボールが回ってこなくなるサイバーボール課題で、脳の痛みを感じる領域(前帯状回、島)が活性化するが、心拍や血圧の心臓血管系の反応には現れないとされてきた。そこでより詳細な循環器系反応である心拍出量(CO)と全末梢抵抗(TPR)を指標にして、サイバーボールゲームにおける排斥の効果を検討した。実験には37名(平均年齢27.4歳,男性20名)が参加し,サイバーボール課題を実施した。実験参加者は自身を含め全員に概ね等しい確率でパスが回ってくる包摂ブロックと,途中から自身にはまったくパスが回ってこない排斥ブロックの2ブロックを実施した。各ブロックにおける参加者にパスが回ってこない試行のみを分析対象とし,それぞれの試行2秒間の心血管反応の変化量を調べた。各指標に対し,排斥時期(包摂ブロック初期・包摂ブロック後期・排斥ブロック初期)と,ブロック順序(排斥ブロック開始,包摂ブロック開始)を要因とした,2要因混合計画の分散分析の結果、排斥ブロック初期のTPRは,包摂ブロック初期と比べ有意に高かった。また排斥ブロック初期のCOは,包摂ブロック初期と後期それぞれと比べ有意に低かった。これらのことから、排斥によって、循環器系にストレス反応が生じることがあきらかになった。ただし、予想に反して排斥ブロックから開始した参加者のCOは,包摂ブロックから開始した参加者に比べ有意に高く、包摂されていたのに排斥されるという一般的ないじめの状況の条件のほうがストレス反応が高いわけではなかった。
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