本研究では、漢字認知時の全体的処理と分析的処理のバランスに関して、個人差がどれだけ影響するのか確認することを目的として行なった。とりわけ、近年明らかな手書き習慣の減退が漢字認知に影響を及ぼすかという点に焦点を当てて実験を行なった。具体的には、漢字と非漢字を区別する漢字認知実験(事前テスト)の後、書字行動(漢字の書取り、もしくは漢字のタイピング)を行い、再び漢字認知実験(事後テスト)をすることで、異なる書字行動を求められた2つのグループの間に事後テストでの漢字認知に違いが出るのかを検証した。加えて、参加者の日常的な書字行動(手書きとタイピングの割合および様々な状況での書字行動の種類と頻度)が漢字認知(事前テストおよび事後テスト)にどのように影響するのか検証した。最終年度には、漢字の意味的な処理も分析対象にできるよう、漢字の意味と部首の意味の類似度を評価してもらう類似度評価実験、および部首から予想される漢字全体の意味を測る部首の有用度評価実験を行なった。研究期間全体を通して、115名の日本語を第一言語とする大学生をテストした結果、一時的な書字行動は漢字の認知方法に影響を与えないことが分かった。しかし、漢字の出現頻度の促進的効果の度合いは日常的な書字行動の種類と頻度に影響されるという結果が見られたことから、手書き行為が認知プロセスに影響を与える可能性が見えてきた。書き取りグループおよびタイピンググループ共に事前テストより事後テストにて漢字の部品を処理する結果が見られたため、手書きとタイピングの区別に関わらず、書くという行為が漢字の認知に影響している可能性も見られた。今年度中にSSCIに掲載されている国際学術雑誌への投稿を目指す。
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