研究課題/領域番号 |
21K18555
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
齋木 潤 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (60283470)
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研究分担者 |
内田 由紀子 京都大学, 人と社会の未来研究院, 教授 (60411831)
阪上 雅昭 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (70202083)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 集団問題解決 / 探索行動 / 協力 / 共有資源管理課題 / コミュニケーション |
研究実績の概要 |
本研究で用いる共有資源管理課題の実装を進めた。この課題はマトリックス上に呈示されたトークンを集めてポイントを獲得する課題でグループ実験を行う。協力者はトークンの空間分布と他の協力者の行動を見ることができる。トークンは確率的に画面上に再生され、再生確率がトークン密度に比例するため、個人得点を最大化すべくトークンを集めると資源が枯渇する。 今年度はまずJanssen et al. (2010)で用いられた課題を集団ではなく個人で実施した場合の探索行動についての基本的な知見を得るために実験プログラムを作成し、予備実験を実施した。1人で行うためには、集団課題の様々なパラメータの調整が必要であり、その作業ののちに、トークンの再生過程についての知識がある場合とない場合の課題成績を比較した。その結果、再生過程の知識を持つ場合には課題の繰り返しにより成績が向上したが、知識がない場合には成績の向上がみられなかった。環境変化に関する知識の有無による課題成績の差異に着目し、今後の集団実験においては、まず2人での課題遂行場面に焦点を当て、知識を持つものから持たないものにどのように知識を伝達して課題成績を向上させるかを検討することとした。それに伴い、3つの観点での分析の計画を検討した。 分析1:探索行動のダイナミクス:予備実験での1人の探索行動の詳細の解析を進めるとともに、2人での協力行動の分析枠組みを検討した。 分析2:集団成員のパーソナリティと協力行動:制御焦点理論が提案する動機づけスタイル(促進焦点、予防焦点)に着目し、協力者の動機づけスタイルを測定し課題における協力行動と動機づけスタイルの関連を分析する準備作業を進めた。 分析3:課題解決時のコミュニケーション:知識伝達実験では、言語的伝達は意味をなさないために、協力実験における意図伝達の手法について具体的な検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、研究代表者、分担者で協力して行う実験研究の概要を予備実験を経て確定し、具体的な役割分担について明確にすることができた。共有資源管理課題に関しては様々な観点からの検討が可能であるが、本研究では、課題遂行を有効に進めるための知識をどのような形で伝達しながら課題を進めていくのか、その際に、協力者の動機づけスタイルがどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的とし、そのために認知心理学者による探索行動の詳細な分析、社会心理学者による動機づけスタイルと課題成績の関連の分析、情報学者のコミュニケーション行動の詳細な分析を組み合わせた具体的な課題のデザインができた。
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今後の研究の推進方策 |
2人でのコミュニケーションを介した共有資源管理課題の実験の実施に向けて、いくつかの課題設定に関する検討をしたのちに、3つの分析の観点を統合した本実験を実施する。それぞれの観点における要検討事項は以下のとおりである。 分析1:探索行動の分析。再生過程の知識がないと学習しないという予備実験の結果は資源の枯渇を経験しなかったことによる影響である可能性があるため、個人課題のパラメータ設定を変更して容易に資源が枯渇する状況の下で結果の再現性を確認する。その上で、集団実験の最適な実験パラメータを決定する。 分析2:動機づけスタイルの影響の分析。質問紙の準備と動機づけスタイルとの関連を検討する課題成績の指標の検討を行う。また、行動の詳細を分析する実験の他にオンライン実験として多くのサンプルを集める実験を計画する。 分析3:コミュニケーションの分析。実験課題における適切なコミュニケーション様式のデザインを行う。言語で伝達しない形で何らかのシグナルを送りながら相互に情報をやり取りする形の課題を設定する。 これらの課題を解決したのちに、本実験として、行動の詳細を分析する比較的小さなサンプルの実験と、オンラインによる大規模なサンプルの実験を並行して実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者の内田は本研究の実施計画をグループ全体で検討する過程で、本実験でのデータ収集が翌年度になること、また、翌年度に大きなサンプルでの本実験が必要になることから本年度分の研究費を翌年度に繰り越したほうが助成金を有効に使用できると判断して繰り越した。このために次年度使用額が生じた。上記のように、今年度に大きなサンプルで実験を行う際に実験協力者への謝金が多く発生するため、翌年度分の助成金と合わせて使用する。
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