研究課題
共感能力はヒトが集団として生存し、発展する上で必須の能力である。ヒトは他者の幸福に対して同じように喜ぶこともあれば(共感的喜び)、妬むこともある。また、他者の不幸に対して共に悲しむこともあれば(共感的悲しみ)、他者の不幸を喜ぶことさえある(シャーデンフロイデ)。本研究は、モデル動物を用いて、個々人を取り巻く社会的環境と他者の幸・不幸に対する共感性についての基本的傾向の関係性について調べる。本年度は、集団飼育環境で育ったマウスを対象とした、観察恐怖学習課題の確立を試みた。この課題は、小さな穴が複数空いた透明のアクリル板で仕切られた二つの実験箱に、ホームケージ内で同居してる2匹のマウスを1匹ずつ入れ、片方の実験箱にいるマウス(デモンストレーター)に対して、音を条件刺激(CS)、微弱な電気ショックを無条件刺激(US)とした恐怖条件づけを行い、もう一方の実験箱でそれを観察しているマウス(オブザーバー)が示す恐怖反応の変化を測定する課題である。マウスの種類、CSおよびUSの強度や長さなど様々な条件を変更しながら実験を重ねた結果、(1)デモンストレーターが自身に対するCS-US対提示の結果として、CS単独提示に対する条件性恐怖反応を示ようになること、(2)オブザーバーは、デモンストレーターに対するCS-US対提示の観察を通して、自身は直接的にショックUSを経験していないにもかかわらず、音CSに対して条件性恐怖反応を示ようになること、が明らかとなった。本研究の結果から、集団飼育環境で育ったマウスは、他個体が示す恐怖反応の観察に対して、ヒトにおける共感的悲しみと類似した負の情動感染を示す可能性が示唆された。
3: やや遅れている
マウスにおける観察恐怖課題は、複数の先行研究において用いられてきた行動パラダイムである。一方、本研究で用いたような、デモンストレーターに対する明瞭な音CSとショックUSを用いた恐怖条件づけを観察しているオブザーバーの行動変化を解析した研究は少ない。本年度は、様々な刺激条件を試すことで、最終的にマウスの示す学習性の負の情動感染を観察するための行動課題を確立することができたが、当初の計画よりも時間を要した。
新しく確立した行動課題の遂行中に、オブザーバーマウスの側坐核からリアルタイムドーパミン計測を行う。側坐核におけるドーパミンレベルはマウスが報酬を得ている際に上昇し、嫌悪刺激等の罰を受けている際に減少することが知られている。これを踏まえて、側坐核におけるドーパミンレベルを指標として、観察学習中のオブザーバーマウスの情動変化、すなわち共感性について検討する。
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Neuropsychopharmacology Reports
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