研究課題/領域番号 |
21K18558
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大坪 庸介 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (80322775)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 協力シグナル / 進化的安定性 |
研究実績の概要 |
2021年度は進化モデルの検討を中心に研究を進めた。具体的には、研究課題のタイトルにもなっている協力シグナル・モデルを作成し、協力シグナル戦略の進化的安定性を検討した。検討した戦略は次のようなものであった。他者が協力的であるとするコストのかかるシグナルを出している時に相手とつきあい、相手が非協力的であれば関係を離脱し、次のパートナーを探す。また。この戦略は、自らもコストのかかる協力シグナルを出すものとした。加えて、協力シグナルを出していない相手も一定の確率で受け入れるとしたときに、このシグナルなしの相手を受け入れる確率がどれくらいであれば、協力シグナル戦略が非協力戦略、シグナルなし協力戦略に対して進化的に安定であるかを検討した。その結果、興味深いこと、に非協力戦略に対して進化的に安定になる条件は、シグナルなし協力戦略に対して進化的に安定になる条件と一致することが示された。 次に協力シグナル戦略が非協力戦略の集団に侵入可能かどうかを検討した。その結果、協力シグナル戦略は、シグナルを出さない相手を受け入れる確率がほぼ0で、かつ一度つき合うと決めた相手とのつきあいが半世代に渡り継続するくらい長くなければ、非協力戦略の集団に侵入できないことが示された。このモデルでは、シグナルを発する傾向とシグナルを受け取る傾向の連動を仮定しているが、実際には、この2つの特性は独立に進化し、相互の相関が自然に生じる必要がある。2つの特性の連動を仮定したモデルでも進化できないとしたら、2つの特性の相関の進化はなお難しいことがわかる。この知見は、2022年度の国際学会で発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の通り、協力シグナル戦略は進化的に安定であるが、非協力戦略の集団に侵入することは容易ではないことがモデルの検討により示された。非協力戦略に侵入可能であれば、その点を実証研究によりさらに詳細に検討する予定であったが、侵入することは困難ということがわかったため、さらなるモデル研究の必要性が明らかになった。しかし、これは想定の範囲内であり、単純なモデルでは検討できない変数の検討を可能にするシミュレーションをすでに準備しており、協力シグナルモデルの進化可能性について今後、詳細に検討可能な状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
今後、シミュレーションにより協力シグナル戦略が非協力戦略の集団に侵入可能な条件を探る。協力シグナル戦略は、ヒト以外の動物で広く観察されていないことから、協力シグナル戦略は、人に特有の認知能力に支えられていると考えられる。そこで、シミュレーションを用いて、ヒトに特有などのような認知能力が協力シグナル戦略の進化を可能にするかを検討し、モデルの仮定が実証研究により支持されるかどうかを検討する予定である。 そこで、2022年度前半は、まずシミュレーション研究を進め、どのような仮定を足すことで協力シグナル戦略が非協力戦略の中に侵入可能になるかを検討する。また、それに加えて、シグナルを発する特性とシグナルを受け取る特性は独立なものであるため、この2つの特性の間に自然な相関が生じる条件を探る。 上記のシミュレーション研究である程度の知見が蓄積された段階で、それらの仮定が実際のヒトの行動と整合的であるかを検討する実験研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は数理モデルの解析を中心に検討を進めた。本来は、途中でコンピュータシミュレーションに切り替え、プログラマの雇用及び高性能のコンピュータの購入が必要と考えていた。しかし、数理モデルの解析を進めるうちに、想定していた以上に数理モデルで理論的に解析可能であることがわかり、2021年度はシミュレーション研究を行わなかったため、使用額が予定よりも少額となった。これは2021年度に、想定していたよりも深い理論的検討ができたことを意味しており、それに基づき2022年度以降にシミュレーションや実験でより深い検討が可能になったことを意味する。
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