研究課題/領域番号 |
21K18562
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
今中 國泰 東京都立大学, 人間健康科学研究科, 客員教授 (90100891)
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研究分担者 |
北 一郎 東京都立大学, 人間健康科学研究科, 教授 (10186223)
雨宮 誠一朗 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (20796015)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 比較認知行動科学 / 表象的慣性 / 視覚的予測 / ヒト / ラット |
研究実績の概要 |
本研究計画の目的は、動く物体の予測的視覚機能、すなわち表象的慣性(移動視標の数百ミリ秒将来が見える機能: Representational Momentum, RM: Freyd & Finke, 1984)が、ヒト特有の高次認知機能なのか動物にも備わる生物学的基盤としての視覚機能なのかを比較認知科学的に明らかにする点にある。そのため、ヒト(成人)と動物(ラット)共通の視覚反応実験系を構築し、両者に共通の実験を実施し、動物もヒト同様に表象的慣性を有するか否かを明らかにする。それらの実験的検討をとおして、比較認知科学的見地からヒト・動物の表象的慣性の知覚認知的共通点・相違点及びその神経基盤を明らかにする。
初年度(2021年度)は、従来のヒト実験に用いてきた実験系と同様のラット実験用タッチパネル装置を用い、ラットの表象的慣性に関する予備実験、特にラットの視覚反応課題遂行行動の獲得のためのトレーニング・プロトコルの構築をめざし、その実験的検討を行った。その結果、ほとんどのラットでは静止刺激タッチ課題が比較的容易にトレーニング可能であったが、表象的慣性実験の必須条件である移動刺激消失後タッチについては、一部のラット(多数のラットのうち1/4~1/5程度)のみが課題遂行可能であることがわかり、全般的には実施困難であった。そこで、その一部のラットを対象に表象的慣性を検討する本実験を実施し、ラットにおける表象的慣性データを収集した。現在、それらの実験結果の分析を行っているところであるが、その分析結果から、もしラットにも表象的慣性の行動特性が認められれば、同一条件でのヒト実験を実施し、ヒトとラットの表象的慣性の特性比較に関する実験的検討に移行する。これまでの動物実験トレーニング・プロトコル構築に関する結果については、国内学会で発表し、さらに論文として国際誌に投稿する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の当初計画は、以下の3か年のスケジュールで進める計画であった。すなわち、(1)初年度は、ヒト・ラット実験用タッチパネル装置による予備実験、特に動物実験の実施に向けた視覚反応課題に対するラットの遂行行動獲得のためのトレーニング・プロトコルの構築、(2)次年度は、構築した実験系により、ヒト・ラットそれぞれを対象とする表象的慣性(RM)の視覚反応実験の実施、(3)最終年度は、ヒト・ラットの表象的慣性(RM)の知覚認知特性における共通点・相違点及びその神経基盤の検討および全体的統括である。
「研究実績の概要」に記したように、初年度のトレーニング・プロトコルの検討結果から、ほとんどのラットでは静止刺激タッチ課題が比較的容易にトレーニング可能であるが、表象的慣性実験の必須条件である移動刺激消失後タッチについては、一部のラット(多数のラットのうち1/4~1/5程度)のみが課題遂行可能であり、全般的には実施困難であることがわかった。そこで、その一部のラットを対象に表象的慣性を検討する本実験を実施し、ラットにおける表象的慣性データを収集するところまで実験的検討を進めることができた。したがって、本年度(初年度)の計画はほぼ予定通りに進んでいるものといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の当初計画は、(1)初年度は、ヒト・ラット実験用タッチパネル装置による予備実験、特に動物実験の実施に向けた視覚反応課題に対するラットの遂行行動獲得のためのトレーニング・プロトコルの構築、(2)次年度は、構築した実験系により、ヒト・ラットそれぞれを対象とする表象的慣性(RM)の視覚反応実験の実施、(3)最終年度は、ヒト・ラットの表象的慣性(RM)の知覚認知特性における共通点・相違点及びその神経基盤の検討および全体的統括である。
初年度の計画はおおむね順調に進展し、一部ラットのみではあるが表象的慣性実験の実施が可能となり、そのデータ収集を開始した。次年度は、当初計画にしたがい、より多くのラットの表象的慣性実験を積み重ね、そのデータの収集に努め、表象的慣性の行動特性がラットに認められるか否かを明らかにする予定である。並行してヒトの表象的慣性実験を実施し、ヒト・ラットの表象的慣性の行動特性比較を可能とする十分なデータ収集を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究計画の採択時期が7月であったことから、初年度の実施計画のうち、ラット実験用のプログラム構築及び実験系・オペラント装置の調整に半年ほどを費やしたことにより、ラット実験の実施が比較的少なかった。実験諸準備が主としてプログラム作成であったことから経費があまり生じなかったこと、また、並行するヒト実験も準備のみで被験者を用いた実験実施がなく、被験者謝金及び実験者雇用の諸経費が生じなかったことから、一定額の予算を次年度に持ち越すことになった。
2022年度の使用計画としては、新規ラットと飼育用飼料等の購入、並行して実施するヒト実験に伴う被験者謝礼、実験実施補助者謝金、物品・消耗品等の購入経費、さらに学会発表のための旅費、論文の英文校正・投稿・出版に伴う諸経費等に使用する計画である。
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