研究実績の概要 |
本研究では、動く物体の予測的視覚機能である表象的慣性(移動視標の数百ミリ秒将来が見える機能: Representational Momentum, RM: Freyd & Finke, 1984)が、ヒト特有の高次認知機能なのか動物にも備わる生物学的基盤なのかを比較認知科学的に明らかにするため、ヒト(成人)と動物(ラット)共通の視覚反応実験系によるヒト・動物実験を実施し、RMの動物・ヒトの比較検討を行うことを目的とした。
2022年度に動物(ラット)のRM実験を実施し、RM課題遂行可能であった7匹における刺激消失後タッチ試行の分析から、正反応(刺激呈示窓へのタッチ)のタッチ誤差は、刺激消失前停留時間500ms条件のタッチ誤差が1000ms条件のそれより有意に大きく、RMが有意であることが示された。これに対し、誤反応(刺激呈示中あるいは刺激非呈示窓へのタッチ)では500-1000ms条件の有意差は生じなかった。したがって、刺激消失後のタッチ反応において刺激移動方向への偏倚(すなわちRM)が有意に生じていることが明らかとなった。
2023年度は、ヒトRM実験を行った。ラットRM実験で用いた刺激消失前の刺激停留時間500、1000ms条件を含む7水準(0、167、333、500、667、888、1000ms)を設定し、それぞれの条件下における刺激消失後タッチ課題を35名の参加者に対して実施した。その結果、0ms条件下では大きなRM(56.8 pixel)が有意に認められ、その他すべての条件でも、0ms条件の1/10以下の大きさではあったが、やはり有意なRMが認められた。さらにラットRM実験と同様の条件にあたる500-1000msのタッチ誤差比較の結果でも有意差が認められ、ラットで見られたRMがヒトRM実験においても有意に検証された。
|