研究課題
本研究は,人間の思考における多様なヒューリスティックスやバイアスを統合的に捉えることを目的として実施されている。この分野のこれまでの研究によって,推論や判断のさまざまなエラーが同定され,それらを説明するためにヒューリスティックスやバイアスが提唱されてきたが,本研究は,二重フレームという理論的枠組みによって多様なエラーの共通特性を検討するものである。2021年度は,研究実施計画に基づいて「適用されるフレーム」に関する研究を実施した。実験に用いたのは,モンティ・ホール問題である。この課題を困難にしている要因は複数あるが,本研究は,「当たりの位置」と「開けるドアの位置」の間の因果関係がわかりにくい点に注目した。「思考の図と地」を反転するようなカバーストーリーの変形課題を作成し,課題構造の理解が促進されることにより正解率が上昇することを実験的に検証した。実験結果は予想通りとなり,仮説は支持されたが,効果量が期待したほど大きくなかった。この結果から明らかになったのは,要因のさらなる検討が必要であること,コミットメントなどの他の要因との切り分けも問題であることなどである(研究成果は2022年度日本認知科学会大会で発表予定)。また,この研究結果から新しい研究テーマも生まれた。思考の図地反転の現象も,コミットメントも,いずれも問題解決者の意識や自己との関係が深いと考えられる。よって,その観点から,推論・判断の合理性と意識や自己の関係について新しい理論的考察を進めることができた。この研究成果については,機会があったため論文執筆を終え,すでに閲読コメントを受けた修正まで完了して,現在,印刷中である。
3: やや遅れている
2021年度は,複数の課題を使用して「適用されるフレーム」に関する実験を実施する予定であった。しかし,一部の課題については申請後から本研究開始前の間にすでに実施終了したこと,感染症拡大状況からウェブ実験に移行することにしたが,その準備に手間取ったこと,実験結果が予想と若干異なったため,その理由を検討する必要あったことから,結局,実施した実験課題は1つだけとなった。しかし,予想とは異なる結果を受けて考察を深めることができたことから,進捗はやや遅れているものの,今後の新しい方向への進展の示唆を得ることができた。
2022年度は,当初の予定通り,「過剰投影によるエラー」の研究に移行する。そのため,表面的に関係のないようにみえる複数の課題間の共通性を探る研究を実施する。ただし,2021年度の研究で明らかになった当初の仮説の問題点をさらに深く検討するため,フレームと意識や自己との関連性について理論的・経験的に明らかにする研究にも新たに着手したい。
当初,海外で実施される国際会議での研究発表を予定していたが,新型コロナウィルス感染症の拡大状況が改善しないことから,現地での国際会議が開催されない事態となったため,出張旅費等の執行額が予定より大幅に少なくなった。また,実験についても,できるだけ対面を避けて,インターネットを使ったものに実施形態が変更した。こうした状況を受け,次年度の研究予算は,オンライン実験用のプログラム作成やクラウドソーシングを利用した実験の謝金などに使用するように計画を変更する。
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認知科学
巻: 29 ページ: 125-130
10.11225/cs.2021.075
巻: 28 ページ: 178-181
10.11225/cs.2020.067