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2021 年度 実施状況報告書

マグノンシフト電流を利用した新しい環境発電原理の開拓

研究課題

研究課題/領域番号 21K18595
研究機関東京大学

研究代表者

関 真一郎  東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (70598599)

研究期間 (年度) 2021-07-09 – 2023-03-31
キーワードスピントロニクス / 磁気共鳴 / マルチフェロイクス
研究実績の概要

初年度にあたる本年度は、空間反転対称性の破れた結晶構造を持つ磁性体であるCu2OSeO3やVOSe2O5について、その詳細な磁気共鳴ダイナミクスと電気磁気結合の計測・解明を行った。これらの物質は、それぞれキラル・極性構造を持ち、基底状態ではらせん磁気構造を、有限磁場下ではスキルミオン磁気構造を生じ、さらに磁気秩序に伴う系の対称性の低下を通じて電気分極が発現するマルチフェロイクスとしての性質も併せ持つことがわかっている。Cu2OSeO3のスキルミオン相では、振動磁場に対して活性なclockwise, counter-clockwise, breathingの3つの共鳴モードが存在することが従来から知られていたが、本研究では新たに、振動磁場に対して不活性な(=マクロな磁化の振動を伴わない)octrupole, sextrupoleモードを、振動磁場活性なモードとのhybrizationを通じて実験的に観測可能であることを発見した。また、VOSe2O5についても、スキルミオン相に固有な3つの振動モードを同定することに成功し、複数存在する磁気相のそれぞれで、多彩な共鳴モードが生じることを明らかにした。上記の実験と平行して、磁気共鳴条件下で電流信号を観測するための測定系の立ち上げも行い、実際にマイクロ波吸収に付随して生じる電流信号を観測することに成功した。これらの信号は、マグノンシフト電流による寄与と、発熱による熱起電力・焦電流の寄与の両方を含む可能性があるため、その切り分けを行うために時間分解測定を可能とする実験系の構築を現在行っている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究では、空間反転対称性の破れた磁性体で期待されるマグノンシフト電流を、GHz帯域の磁気共鳴を介して実験的に観測することで、新しい環境発電原理を開拓することを目的としている。初年度にあたる本年度は、空間反転対称性の破れた結晶構造を持つ磁性体であるCu2OSeO3やVOSe2O5について、その詳細な磁気共鳴ダイナミクスの解明を行い、スキルミオン相を含む複数の磁気相において、特徴的な磁気共鳴モードを明らかにすることに成功している。また、上記の実験と平行して、磁気共鳴条件下で電流信号を観測するための測定系の立ち上げも行い、実際にマイクロ波吸収に付随して生じる電流信号を観測した。最終的にマグノンシフト電流であることを同定するためには、時間分解測定による熱的な電流との切り分けが必要であるが、現時点での進捗としては概ね順調に研究が進展していると考えられる。

今後の研究の推進方策

2年目にあたる本年度は、磁気共鳴に付随した電流信号がマグノンシフト電流に起因していることを確かめるために、時間分解測定による熱的な信号(熱起電力・焦電流)との切り分けを行う。具体的には、パルス電流源を高周波ウェーブガイドに接続して、適当な繰り返し周期で100ピコ秒幅のパルス磁場を試料に与えた上で、試料中に生じる電流信号の時間波形をサンプリングオシロスコープ(帯域幅70GHz)を利用して測定する。マグノンシフト電流は、基本的にスピンダイナミクスと同じ応答速度で生じると期待されるのに対して、熱的な信号はずっと遅い時間スケールで生じるはずであり、この性質を利用して、両者の成分の切り分けを行うことが可能である。また、モード・磁気構造・共鳴周波数といったパラメータにどのようにマグノンシフト電流の大きさが依存するかを明らかにするとともに、より応用上望ましい特性(大きな応答係数、高い秩序温度など)を伴う新物質の開拓にも取り組みたい。

次年度使用額が生じた理由

当初目的としていた磁気共鳴に付随する電流信号を観測した一方で、その起源がマグノンシフト電流である(他の熱起源の電流ではない)ことを確実に同定するためには時間分解測定が必要であることが判明し、高周波計測用の電子部品の構成の一部の再検討が必要になったため。既に必要な部品の選定は追えており、次年度前半に実際に導入を予定している。

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2022 2021 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)

  • [国際共同研究] Karlsruhe Institute of Technology/Technische Universitat Munchen(ドイツ)

    • 国名
      ドイツ
    • 外国機関名
      Karlsruhe Institute of Technology/Technische Universitat Munchen
  • [国際共同研究] Paul Scherrer Institute (PSI)/EPFL(スイス)

    • 国名
      スイス
    • 外国機関名
      Paul Scherrer Institute (PSI)/EPFL
  • [雑誌論文] Square and rhombic lattices of magnetic skyrmions in a centrosymmetric binary compound2022

    • 著者名/発表者名
      Takagi Rina、Matsuyama Naofumi、Ukleev Victor、Yu Le、White Jonathan S.、Francoual Sonia、Mardegan Jos? R. L.、Hayami Satoru、Saito Hiraku、Kaneko Koji、Ohishi Kazuki、?nuki Yoshichika、Arima Taka-hisa、Tokura Yoshinori、Nakajima Taro、Seki Shinichiro
    • 雑誌名

      Nature Communications

      巻: 13 ページ: 1472

    • DOI

      10.1038/s41467-022-29131-9

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Zoology of Multiple‐<i>Q</i> Spin Textures in a Centrosymmetric Tetragonal Magnet with Itinerant Electrons2022

    • 著者名/発表者名
      Khanh Nguyen Duy、Nakajima Taro、Hayami Satoru、Gao Shang、Yamasaki Yuichi、Sagayama Hajime、Nakao Hironori、Takagi Rina、Motome Yukitoshi、Tokura Yoshinori、Arima Taka‐hisa、Seki Shinichiro
    • 雑誌名

      Advanced Science

      巻: 9 ページ: 2105452~2105452

    • DOI

      10.1002/advs.202105452

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Direct visualization of the three-dimensional shape of skyrmion strings in a noncentrosymmetric magnet2021

    • 著者名/発表者名
      Seki S.、Suzuki M.、Ishibashi M.、Takagi R.、Khanh N. D.、Shiota Y.、Shibata K.、Koshibae W.、Tokura Y.、Ono T.
    • 雑誌名

      Nature Materials

      巻: 21 ページ: 181~187

    • DOI

      10.1038/s41563-021-01141-w

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Hybridized magnon modes in the quenched skyrmion crystal2021

    • 著者名/発表者名
      Takagi Rina、Garst Markus、Sahliger Jan、Back Christian H.、Tokura Yoshinori、Seki Shinichiro
    • 雑誌名

      Physical Review B

      巻: 104 ページ: 144410

    • DOI

      10.1103/PhysRevB.104.144410

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] 異常ホール反強磁性体CoM3S6(M=Nb,Ta)の偏極中性子散乱による磁気構造解析2022

    • 著者名/発表者名
      高木寛貴, 高木里奈, 齋藤開, Nguyen Duy Khanh, 大石一城, 鬼柳亮嗣, 野本拓也, 見波将, 鈴木通人, 柳有起, 平山元昭, 軽部皓介, 橋爪大輔, 十倉好紀, 有田亮太郎, 中島多朗, 関真一郎
    • 学会等名
      日本物理学会 2022年年次大会
  • [学会発表] 磁気スキルミオンの物質設計と3次元ダイナミクス2022

    • 著者名/発表者名
      関真一郎
    • 学会等名
      第69回応用物理学会春季学術講演会
    • 招待講演
  • [学会発表] カイラル反強磁性体CoNb3S6の異常ホール効果の磁気光学分光2021

    • 著者名/発表者名
      岡村嘉大, 林悠大, カーンヌイェン, 関真一郎, 十倉好紀, 高橋陽太郎
    • 学会等名
      日本物理学会 2022年年次大会
  • [学会発表] 磁気スキルミオンストリングの3次元形状の観察2021

    • 著者名/発表者名
      関真一郎, 鈴木基寛, 石橋未央, 高木里奈, Nguyen Duy Khanh, 塩田陽一, 柴田基洋, 小椎八重航, 十倉好紀, 小野輝男
    • 学会等名
      日本物理学会 2022年年次大会

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公開日: 2022-12-28  

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