研究課題
初年度にあたる本年度は、空間反転対称性の破れた結晶構造を持つ磁性体であるCu2OSeO3やVOSe2O5について、その詳細な磁気共鳴ダイナミクスと電気磁気結合の計測・解明を行った。これらの物質は、それぞれキラル・極性構造を持ち、基底状態ではらせん磁気構造を、有限磁場下ではスキルミオン磁気構造を生じ、さらに磁気秩序に伴う系の対称性の低下を通じて電気分極が発現するマルチフェロイクスとしての性質も併せ持つことがわかっている。Cu2OSeO3のスキルミオン相では、振動磁場に対して活性なclockwise, counter-clockwise, breathingの3つの共鳴モードが存在することが従来から知られていたが、本研究では新たに、振動磁場に対して不活性な(=マクロな磁化の振動を伴わない)octrupole, sextrupoleモードを、振動磁場活性なモードとのhybrizationを通じて実験的に観測可能であることを発見した。また、VOSe2O5についても、スキルミオン相に固有な3つの振動モードを同定することに成功し、複数存在する磁気相のそれぞれで、多彩な共鳴モードが生じることを明らかにした。上記の実験と平行して、磁気共鳴条件下で電流信号を観測するための測定系の立ち上げも行い、実際にマイクロ波吸収に付随して生じる電流信号を観測することに成功した。これらの信号は、マグノンシフト電流による寄与と、発熱による熱起電力・焦電流の寄与の両方を含む可能性があるため、その切り分けを行うために時間分解測定を可能とする実験系の構築を現在行っている。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、空間反転対称性の破れた磁性体で期待されるマグノンシフト電流を、GHz帯域の磁気共鳴を介して実験的に観測することで、新しい環境発電原理を開拓することを目的としている。初年度にあたる本年度は、空間反転対称性の破れた結晶構造を持つ磁性体であるCu2OSeO3やVOSe2O5について、その詳細な磁気共鳴ダイナミクスの解明を行い、スキルミオン相を含む複数の磁気相において、特徴的な磁気共鳴モードを明らかにすることに成功している。また、上記の実験と平行して、磁気共鳴条件下で電流信号を観測するための測定系の立ち上げも行い、実際にマイクロ波吸収に付随して生じる電流信号を観測した。最終的にマグノンシフト電流であることを同定するためには、時間分解測定による熱的な電流との切り分けが必要であるが、現時点での進捗としては概ね順調に研究が進展していると考えられる。
2年目にあたる本年度は、磁気共鳴に付随した電流信号がマグノンシフト電流に起因していることを確かめるために、時間分解測定による熱的な信号(熱起電力・焦電流)との切り分けを行う。具体的には、パルス電流源を高周波ウェーブガイドに接続して、適当な繰り返し周期で100ピコ秒幅のパルス磁場を試料に与えた上で、試料中に生じる電流信号の時間波形をサンプリングオシロスコープ(帯域幅70GHz)を利用して測定する。マグノンシフト電流は、基本的にスピンダイナミクスと同じ応答速度で生じると期待されるのに対して、熱的な信号はずっと遅い時間スケールで生じるはずであり、この性質を利用して、両者の成分の切り分けを行うことが可能である。また、モード・磁気構造・共鳴周波数といったパラメータにどのようにマグノンシフト電流の大きさが依存するかを明らかにするとともに、より応用上望ましい特性(大きな応答係数、高い秩序温度など)を伴う新物質の開拓にも取り組みたい。
当初目的としていた磁気共鳴に付随する電流信号を観測した一方で、その起源がマグノンシフト電流である(他の熱起源の電流ではない)ことを確実に同定するためには時間分解測定が必要であることが判明し、高周波計測用の電子部品の構成の一部の再検討が必要になったため。既に必要な部品の選定は追えており、次年度前半に実際に導入を予定している。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
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