神経細胞の中央にあるニューロンフィラメントは、配向した棒状高分子の束であり、それを覆う多層の脂質膜構造は強誘電性の高分子液晶と類似しています。これまでに、神経伝達する波を、膜を伝搬するソリトン波とみなすニューロン表面波仮説が提唱されてきました。この仮説が成り立つためには、神経細胞全体が液晶である必要がありますが、神経細胞が高分子液晶であることを明示する実験結果は我々の知る限りありません。そこで本研究では、神経細胞に電場を印加し、光学特性や電気特性の解析を通じて、神経細胞が高分子液晶であるかどうかを明らかにすることを目的としました。 これまでに、ヤリイカやスルメイカを解剖して神経軸索を採取し、それを偏光顕微鏡下で観察することにより、神経軸索に沿った光学異方性を調べました。その結果、神経軸索に沿って光学異方性の異なる二つの層構造が確認できました。さらに、この光学特性を生み出す生体高分子を特定するため、マイクロキャピラリーによる分子の採取と生化学的解析を行い、二つの層それぞれに局在する分子をほぼ特定しました。また、電気的なシグナルを測定しつつ光学特性の時空間変化を解析するため、高速度カメラを設置した偏光顕微鏡で電気パルス測定に挑戦しました。しかし、電気的ノイズの除去と動く細胞を高速で画像取得する点に課題が残りました。そこで今後は、これらの課題を解決することで、電気パルスと光学特性の時空間変化を対応づけたいと考えています。
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