研究課題/領域番号 |
21K18597
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森 初果 東京大学, 物性研究所, 教授 (00334342)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 無水超プロトン伝導 / プロトン互変異性 / 分子運動 / 水素結合ネットワーク / 分子性物質 |
研究実績の概要 |
多様なエネルギーの中でも、極めてクリーンなエネルギーとして長らく注目されてきた水素から電気エネルギーを取り出す燃料電池に注目が集まっている。現在、燃料電池の電解質として、液漏れがなく環境調和型で、中温度域でも利用できる無水の有機固体プロトン電解質の研究が必要とされている。 その無水有機プロトン伝導体の中で、比較的プロトン伝導性の高い酸―塩基型のジカルボン酸―イミダゾールの物性研究で、伝導を担う分子の運動がプロトン伝導を促進すること、さらに水素結合ネットワークの多次元性が重要であることが示唆されている。そこで(I)多彩な分子運動に着目した無水有機プロトン伝導体を設計・合成し、(II)3次元に水素結合が広がった結晶において、分子の運動、結晶構造、およびプロトン伝導性(温度依存性、周波数依存性)の相関より伝導機構解明を行い、(III)室温での超プロトン伝導(> 0.001 S/cm)の開拓に挑むことを目的としている。 本年度は、酸―塩基型無水有機プロトン伝導体として、酸、塩基とも分子運動をすると考えられるメタンスルホン酸―イミダゾリウムあるいは1,2,4-トリアゾリウムの単結晶塩を合成し、各々、443 K、および388 Kで0.001 S/cmを超える超プロトン伝導となることを見出した。さらに、2次元的な水素結合ネットワークであるにもかかわらず、等方的なプロトン伝導を示すことも明らかにした。今後は、カチオンの分子運動を実験、理論からも調査し、高プロトン伝導性の起源を明らかにて物質設計指針を確立する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
無水プロトン伝導体は、無加湿の条件下で100 ℃以上で動作する燃料電池の電解質として注目されている。我々のグループではこれまでに、高い無水プロトン伝導性を獲得する指針として、(i)プロトン伝導経路としての水素結合ネットワークの構築、(ii)酸と塩基の共役酸のpKa差(Δ pKa)の低減、および(iii)分子回転運動の活性化、の三つの要素を見出した。本研究では、 大きなΔpKa値(Δ pKa = 9.95)を有するにも関わらず10-2 S cm-1を超える非常に高い無水プロトン伝導度を示すことが報告されていたメタンスルホン酸イミダゾリウム (1) の良質な単結晶を作製し、物質固有の無水プロトン伝導性及びその異方性を調査した。加えて、本系におけるΔ pKaが無水プロトン伝導性にもたらす影響を調査するために、メタンスルホン酸1,2,4-トリアゾリウム(2)の単結晶についても同様に物質固有の無水プロトン伝導性を調査した。 (1),(2)ともに良質な単結晶の作製に成功し、本研究で物質固有の無水プロトン伝導度とその異方性を評価することに初めて成功した。(1)の単結晶は、a、b、c軸方向全てについて443 Kで10-3 S cm-1を超える超プロトン伝導性を示し、伝導度の温度依存性は等方的であることが明らかになった。重要な点は、(1)の単結晶が異方的な水素結合ネットワークと大きなΔ pKa(9.95)の値を持つにも関わらず、等方的かつ高いプロトン伝導性を示したことである。一方、(2)の単結晶も同様に、異方的な水素結合ネットワーク構造を持つにもかかわらず、等方的な無水プロトン伝導性を示し、特にa軸方向においては388 Kにおいて10-3 S cm-1を超える超プロトン伝導性を示した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では2つの点で無水プロトン伝導体の設計に新たな指針を与えたと考えている。第一に、対称性の高い形状を持つ酸・塩基分子から成る結晶構造においては、分子内に過渡的な水素結合の形成が期待され、異方的な水素結合ネットワークにおいても等方的なプロトン伝導性を示す可能性が示唆された。第二に、ΔpKaの増大は同一温度での無水プロトン伝導度の低下に繋がるものの、より高い融点の獲得を通して同等以上の最高伝導度をもたらしうることが明らかとなった。本研究の成果は、これまでに我々が確立した無水プロトン伝導体単結晶の設計指針を拡張するものとなり、高温動作が求められる実用的な無加湿固体電解質の実現を今後も進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
分子性無水超プロトン伝導体の開発とその物性評価より、物質設計指針の確立を目指している。2021-2022年に、分子のダイナミクスを利用した超プロトン伝導体に加え、分子はほぼ動かず、電子とプロトンがカップルしたプロトン互変異性を機構とする超プロトン伝導体を予期せず前者の研究途上で見出した。後者は新しい機構で、特殊な装置(固体NMR)や大型装置(中性子、放射光)を利用した実験とスパコンを利用した理論計算をして後者の機構を明らかにする予定である。2022年は、実験や理論計算のマシンタイムを申請し、繰り越しを申請した予算で、2023年に詳細なプロトン互変異性の機構を、実験及び計算科学で証明する予定である。
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