層状バナデートに現れる無機ソフトマター状態の格子ダイナミクスに係る諸物理量(相関長・タイムスケール・温度依存性)を測定することを目的として、SPring-8 BL36XUにおいて時分割X線吸収分光測定を行った。本物質では結晶の配向が3通りに自発的に変化する格子ダイナミクスを生じており、偏向X線を利用したEXAFS測定では、X線の偏向方向と結晶配向の関係性が時間依存して変化することになる。X線の偏向方向を維持した場合、結晶の配向の変化に応じてEXAFSスペクトルにダイナミクスのタイムスケールを反映した変化が現れると期待される。実験にあたっては、ジャパンハイテック株式会社製の顕微鏡用冷却加熱ステージ『リンカム』の一部を改造し、試料位置を変化させながら温度を変えられるシステムを構築し、試料中の資料の厚みが異なる複数個所での時分割回折実験を温度依存性とともに測定した。装置の改良は申請者の所属する大学内の工作室を利用して行った。300 Kにおいて100msecおよび50msecの露光時間の測定を繰り返し行い、得られた試料のEXAFSスペクトルの観察を行った結果、およそ0.6秒周期でスペクトルに変化が現れていることを突き止めた。目的としているダイナミクスを反映した時間依存性を捉えているようにも思えるが、一方で温度依存性が強くはないという特徴も現れており、これは予想には反する結果である。今後は解析を進め、この特徴が本質であることを明らかにし、実験の不足部分を補ったうえで論文投稿に向けて準備を進めたい。
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