脊椎動物において、精細管から生み出された精子は、精巣上体管内に運ばれ輸送される間に運動能を獲得する。この過程は、精子の生殖細胞としての機能の獲得に極めて重要であるにもかかわらず、生体内でどのように精子が振る舞うのかについては全く未解明であった。本研究の目的は、1)生体イメージング計測と2)数理モデリングによる理論解析を通して、精巣上体内の精子流れを明らかにし、その形成の仕組みを明らかにすることである。 本研究課題中に、マウスを用いて生体内および生体外の両実験系におけるライブイメージング法の確立と精子集団運動の特徴づけを行った。特に、マウス個体を生かした状態で組織深部を顕微鏡観察する生体イメージング法の確立に注力した。多光子顕微鏡を用いた生体イメージングにより精巣上体管内での精子集団運動の詳細な観察を行った。その結果、精巣上体頭部では精子が管の拍動に応じて受動的に輸送される一方で、精巣上体尾部ではダイナミックな精子集団の流れ場が形成されていることを明らかにした。また、精子流れの時系列画像から渦度などの特徴量を抽出し、精子集団流れ場を定量的に特徴づける一連の解析システムを構築した。さらに、得られたデータを基に精子集団流れの数理モデル化を進めた。これらの成果は、論文として国際誌にて報告するために取りまとめている最中である。 本研究課題の推進により、新たなアクティブマター生命現象の原理の理解につながるだけでなく、生殖生物学・再生医学を含む基礎科学分野に影響を与えることが期待される。 なお、代表者の所属機関変更による科研費の受給資格の喪失のため、2022年度途中で本計画を中断している。
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