研究課題/領域番号 |
21K18602
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉山 正明 京都大学, 複合原子力科学研究所, 教授 (10253395)
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研究分担者 |
大田 ゆかり 群馬大学, 食健康科学教育研究センター, 講師 (40399572)
井上 倫太郎 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (80563840)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 深海タンパク質 / オスモライト / 中性子散乱 / α-グルコシダーゼ |
研究実績の概要 |
深海は我々が生息する地上とは大きく環境が異なり、高圧・低温と言った過酷な条件が揃った極限環境である。特に深海における高圧は地上では全く存在しない環境であるが、そのような環境下でも生物は存在する。一方、生命活動を支える蛋白質は常温・常圧ではコンパクトに折りたたまれる事により特有の立体構造を形成し機能を発現するが、蛋白質はこの立体構造を維持できなくなると同時に機能も喪失する。それでは「深海生物はどのようにして高圧環境下においても蛋白質の構造を維持しているのか? 」本研究の目的はこの謎の解明である。 本研究では、深海より採取したタンパク質・αグリコシダーゼ(αGZ)を用いて、高圧時の構造維持支援物質と推定されるトリメチルアミンオキサイド (TMAO)との混合系での高圧下での溶液構造の解明を目指している。このためにαGZの大量発現系の確立と溶液散乱用の高圧セルの開発が必要である。令和3年度は、まずαGZのスモールスケールで発現実験を行い、そこで 得られた試料の品質調査(単分散性)を溶液散乱(常圧下でのX線小角散乱)により行った。その結果、溶液中でαGZは非常に良い単分散性を示し、溶液構造を測定可能であることを確認した。そこで、この系を基に大量発現系の構築を開始したが収量が十分でないことが判明した。今後の研究上必要な試料の重水素化を行った場合、収量が悪化することが予測される。そこで、現在、収量の向上を目指して発現系の改良を進めている。高圧実験用の溶液セルの開発は、高圧実験の専門家のアドバイスの基に設計を進め、100MPa(10,000mに相当)まで加圧可能なセルの設計が終了した。令和4年度に製作予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、試料調製における3つの問題「単分散試料の精製」「大量発現系確立」「中性子散乱に向けたタンパク質重水素化」と測定に関する2つの問題「高圧測定システムの開発」と「散乱測定データの解析法の開発」の解決が研究の成功のための大きな課題である。 「単分散試料の精製」は構造解析可能な溶液散乱データを取得するために必須の課題であるが、共同研究者の大田が令和3年度に確立した。(単分散性は、質量分析・超遠心分析・X線小角散乱を用いて杉山・井上が確認した)一方で、現手法では収量が十分ではないので種々の溶液散乱実験を行うために今後は大量発現系の確立を行う。 「高圧測定システムの開発」では、令和3年度は100MPaまで加圧可能な溶液セルの開発を行った。十分な散乱強度を得るためには口径の大きなビームを試料セルに入射する必要があるが、そのためには窓材の適切な選択(厚さも含む)が重要である。このため高圧実験の専門家の助言を受け専門業者と共同で作業することで、充分に実現可能な高圧セルの設計を行った。令和4年度に製作予定である 以上より順調に研究は進行している判断した。
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今後の研究の推進方策 |
試料調製では、種々の溶液散乱のためにαGZの大量発現系の確立を行う。その後、逆転コントラスト変調中性子小角散乱実験のために、αGZの重水素化発現系とその大量発現系の確立を行う。高圧溶液散乱実験は、高圧セルの製作を行い、杉山の研究室に設置してあるMo線源(Cu線源に比して物質透過率が高く、高圧セルの窓材のへの制限がCu線源に比べ少ない)のX線小角散乱装置を用いて、透過率等のセルの性能確認を行う。性能確認御、Mo-SAXS装置を用いた高圧溶液散乱実験を行う。まずは、BSAなどの標準資料を用いて行い、充分な散乱強度が得られることを確認し、その後、αGZを用いた実験を実施する。この時、温度依存性やTMAO共存系でのX線小角散乱実験も行う。更に、重水素化試料の調製(及び大量発現系の構築)が完了した後は、この試料を用いて世界初の高圧―逆転コントラスト同調中性子小角散乱実験へと展開する。 溶液散乱データは、通常のGuinier 解析・距離相関関数・ab initio modelingを行い、構造変化を解析する。更に、主成分解析や分子動力学法等の計算機を用いた解析を行い、より詳細な構造解析を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
高圧セルの製作のために費用を計上していたが、コロナ禍のため、業者との打合せがTV会議に限られたため設計にとどまり、設計のみでは費用が生じなかった。よって、次年度はこの設計に基づき、次年度使用額も用いて高圧セルの製作が行う。
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