研究課題/領域番号 |
21K18609
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研究機関 | 豊田工業大学 |
研究代表者 |
松波 雅治 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30415301)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 重い電子系 / 熱電材料 |
研究実績の概要 |
本研究は重い電子系の特性を活かした革新的熱電デバイスの創製に挑戦するものである.重い電子系は,高い熱電出力因子が得られるにも関わらず,熱伝導度の低減が困難なために熱電材料としての実用化は進んでいない.この現状に対する逆転の発想として,本研究では,熱伝導度が影響しない,あるいはむしろ高い熱伝導度が必要な熱電デバイスである「熱電池」と「能動冷却素子」に注目し,これらに重い電子系を適用する.重い電子系の熱電特性を最適化することにより,既存の材料を凌駕する性能を有する熱電デバイスを開発する. 本年度は新しい重い電子系熱電デバイスの開発を目指して,その候補物質となるYbB6の研究を開始した. YbB6においてはイッテルビウムとホウ素を化学量論比から僅かにずらすことによって極性を制御できることが知られており,様々な熱電デバイスへの応用が期待できるが,その詳しいメカニズムはよくわかっていない.これを理解するためには,組成比を制御したYbB6試料の高品質な単結晶を作製し,その熱電特性を基礎物性や電子構造と関連付けて調べる必要がある. 今年度は,組成を制御したYbB6の多結晶及び単結晶試料作製を行った.具体的に行った作製手順は次の通りである.(1)プレス機を用いて原料の圧粉体を作製,(2)電気炉で焼結体を作製,(3)複数の焼結体をアーク溶解によって連結することでインゴット作製,(4)インゴットを浮遊帯域溶融(FZ)炉内アルゴン雰囲気下で単結晶化. この方法により,組成比の異なるYbB6のインゴットの作製にはおおむね成功した.またFZ炉での単結晶化に関しては,インゴットを吊り下げる白金線の溶融等の問題で,大きな試料は得られなかったが,非常に微小(1 mm角程度)ではあるものの単結晶を得ることには成功した.今後は,インゴットの作製手順まで含めて再検討し,組成を制御した単結晶試料が安定的に得られるよう取り組んでいく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,新しい熱電デバイスの候補物質YbB6の組成を制御した試料の作製に成功した.YbB6の単結晶を作製するためには,キセノンランプを備えた浮遊帯域溶融溶融(FZ)炉が必要である.しかしながら,申請者の研究室においてはハロゲンランプを用いたFZ炉を保有しているが,これでは目的の単結晶を作製するために必要な高温が得られない.したがって,本研究では目的とするFZ炉を保有している公立千歳科学技術大学に出張して単結晶作製を行った.したがって,時間と手間はかかるものの,おおよそ目的とする単結晶作製手順の確立に目途が立った.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度から引き続き組成を制御したYbB6の多結晶・単結晶試料の作製に取り組む.特に,インゴットの作製手順まで含めて再検討し,組成を制御した単結晶試料が安定的に得られるようにする.その後,この試料を用いて結晶構造,組成分析,熱電特性,磁性,電子構造などの測定へと進める.ここでは,今までに行われていない極低温4 Kから1000 Kまでの非常に広い温度範囲にわたる熱電特性の測定を行うことを計画している.また角度分解光電子分光を用いて,僅かな組成のずれによる電子構造・バンド構造の微細な変化を詳細に計測することも計画している. その後,これらを連結する,あるいは結晶育成中に組成を連続的に制御するといった方策を行い,熱電池としてどの程度の性能を示すかについて詳しく調査する.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ対応等により,出張実験が年度末の3月末にずれたために,計画が後ろ倒しになったため,次年度使用額が生じた.本来,2021年度に使用する予定だった物品を2022年度に合わせて購入するため,2022年度末で計画と合う予定である.
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