研究実績の概要 |
本研究では、メタダイナミクス(Metadynamics, MTD)法を分子動力学(Molecular Dynamics, MD)法に組み込んだシミュレーション計算(以下、メタダイナミクス計算)をイオン性分子集合系であるイオン液体に対して実施し、そこから出現する結晶構造とその形成経路を調べる。イオン液体とは有機イオンや錯イオンから成る常温の液体であり、超不揮発性、超難燃性、高イオン伝導度等の優れた性質を有し、水、有機物、高分子やセルロースまで溶かす特異な溶媒である。低温または高圧で起こるその結晶相転移は、時に数日も要するほど遅いため出現する安定相や準安定相の結晶構造が不明なものが多い。実験追求が困難なイオン液体の遅い相転移により出現する結晶構造やその形成経路などをメタダイナミクス計算により明らかにすることで、この方法により分子集合系に潜む未知の相の構造やその形成経路等の理論探索が可能なことが実証される。 本年度は、昨年度に引き続きイミダゾリウム系カチオン[C1min]+(1-methyl-3-methylimidazolium)とPF6-のアニオンからなるイオン液体に対するメタダイナミクス計算において出現する相の構造を調べ、その形成条件等を考察した。本計算で出現した既知のα相やβ相とは違う構造の結晶類似相は、実在するならば、その密度の高さより高圧領域で形成する相と考えられる。また、自由エネルギー表面における高い領域においてアニオンとカチオンの集合体が空間的に分離して整列した相の出現も認められた。さらに本年度は、[C2min]+、[C3min]+、[C4min]+に対するメタダイナミクス計算や結晶表面・界面上に置いたイオン性高分子に対するメタダイナミクス計算なども実施し、新物質探索や複雑な分子構造探索手法としての本研究手法の有効性を確認した。
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