本研究では,テスラ級強磁場中での大気圧プラズマ照射による新規細胞機能制御法の確立に挑戦する.本年度は,前年度に明らかとなった大気圧プラズマの特性が6~8テスラの範囲で急激に変化する現象をさらに探求するため,東北大学強磁場超伝導材料研究センターの超電導マグネット専用の気液界面プラズマ装置を用いて,10テスラまでの強磁場を印加した環境下でのプラズマ挙動とプラズマ照射溶液の特性を調べる実験を行った. 1.プラズマは,前年度と同様に石英管内にヘリウムを流しながら,円筒状高電圧電極に低周波高電圧を印加することで生成した.Q-Vリサージュ法により放電電力の印加磁場強度依存性を計測したところ,放電電力は0.6W程度であり,印加磁場強度に依存しないことが分かった. 2.大気圧プラズマの電位揺動を計測する目的で,石英管末端から25mmの位置に静電プローブを設置し,印加磁場強度を変化させながら浮遊電位の周波数スペクトル解析を行った.その結果,磁場強度が6テスラ程度以上で時間平均した浮遊電位が低下するとともに,浮遊電位の揺動強度が増大する傾向が観測された. 3.プラズマ照射高速液柱流中での反応過程を考察する目的で,純水を用いた高速液柱流に対してプラズマ照射し,長寿命活性種である過酸化水素,亜硝酸イオン,硝酸イオンの濃度の印加磁場強度依存性を計測した.その結果,過酸化水素は印加磁場強度が6 T以上で増大しているが,亜硝酸イオン濃度および硝酸イオン濃度は印加磁場強度に依存しないことが分かった. 以上の結果から,前年度に得られた印加磁場強度が6テスラ程度以上でのOHラジカル濃度の急激な増加およびpH低下の要因が,放電電力増加によるプラズマ密度の増加や硝酸濃度の増加によるものではなく,大気圧プラズマ中の揺動励起により荷電粒子の輸送特性が変化したためであることを示唆する結果が得られた.
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