研究課題
ベルリサーチセンター小屋博士と共同で、BSL2で取り扱いが可能なヒトコロナウイルスOC43の実験系を立ち上げた。宿主細胞としてはVero細胞を用い、プラークアッセイによりOC43の感染能を評価する実験系を立ち上げた。様々な条件でプラズマ活性乳酸リンゲル液(PAL)を作製し、コントロールである乳酸リンゲル液に対するコロナウイルス不活化能を調べた。感作時間として、15分と60分を試したが、15分の感作時間でもPALのコロナウイルス不活化能が確認された。低温プラズマと液面との照射距離の短い「Strong PAL」と照射距離の長い「Mild PAL」を作製し比較したところ、Strong PALの原液は宿主細胞に対して毒性を示すのに対し、16倍希釈のPALは宿主細胞にはダメージを与えず、コロナウイルス不活化能を示した。更にMild PALでは、16倍希釈のStrong PALよりも過酸化水素濃度は低いにも関わらず、大きな殺傷効果を示すことが分かった。以上の結果を元に、受託解析によりMild PALの豚コロナウイルス(PVDE)に対する不活化能と新型コロナウイルスSARS-Cov2デルタ株に対する不活化能を調べたところ、これらのウイルスに対してもMild PALはコントロールに比べ十分な不活化能を持つことが分かった。以上の結果からPALが新型コロナウイルスなどのコロナウイルスに対して不活化能を示すことが証明された。今後、Strong PALとMild PALの違いとして、活性酸素窒素種の違いや乳酸ナトリウムのプラズマ反応生成物の違いなどに着目し、PALによるコロナウイルス不活化の機構解明を行いたいと考えている。
1: 当初の計画以上に進展している
BSL2で取り扱い可能なヒトコロナウイルスOC43の実験系が立ち上がったことにより、様々な条件で作製されたプラズマ活性溶液のコロナウイルス不活化能を調べることが可能となった。今回はStrong PALとMild PALのコロナウイルス不活化能の比較を行い、Mild PALの方が宿主へのダメージが少なく、コロナウイルスの不活化能が高いことが分かった。以上の結果はプラズマ活性溶液の作製法を最適化することにより、生体へのダメージが少なく、コロナウイルスを不活化できるプラズマ活性溶液を開発可能であることを示唆しており、当初の計画以上に進展していると言える。また、OC43の実験系で優れたウイルス不活化能を示したMild PALについて受託解析により豚コロナウイルスや新型コロナウイルスSARS-Cov2デルタ株に対する不活化能を調べたところ、これらのウイルスでもMild PALが不活化能を示すことが分かった。以上の結果はOC43の実験系がその他のコロナウイルスの系にも適用可能であることを示しており、当初の計画以上に進展していると言える。
今年度の実験により、Strong PALの16倍希釈液に比べ、Mild PALは過酸化水素濃度が高いにも関わらずコロナウイルスへの不活化能が高いことが分かった。Strong PALの16倍希釈液とMild PALの違いの1つとして、亜硝酸イオン濃度がMild PALの方がStrong PALの16倍希釈液に比べ10倍以上高いことが挙げられる。亜硝酸イオン濃度が高いことがコロナウイルスの不活化能上昇と関係しているかどうかを調べるために、完全閉鎖型のプラズマ活性溶液作製装置を用い、アルゴン雰囲気化でプラズマ活性溶液を作製し、窒素ガス添加によるPALのコロナウイルス不活化能の違いを調べる。また、アルゴン雰囲気化で、窒素ガスや酸素ガスを様々な混合比で添加することにより、コロナウイルス不活化能におけるPALの最適化を試みる。更に、Mild PALにおける同等濃度の過酸化水素、亜硝酸イオン、過酸化水素+亜硝酸イオンを未照射乳酸リンゲル液に加えた溶液を用いてコロナウイルス不活化能を調べることにより、コロナウイルス不活化能が活性酸素窒素種によるものなのか?それ以外の効果によるものなのかを調べる。活性酸素窒素種以外の要因としては、乳酸ナトリウムのプラズマ反応生成物の寄与が考えられ、これまでの我々の研究で、プラズマ照射乳酸ナトリウムの反応生成物として、酢酸、ギ酸、ピルビン酸、2,3-ジメチル酒石酸、グリオキシル酸など各種反応生成物を同定しているため、これらのうちでどれがコロナウイルス不活化に関与しているかを調べる。
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