研究課題/領域番号 |
21K18621
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岸本 康宏 東北大学, ニュートリノ科学研究センター, 教授 (30374911)
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研究分担者 |
小川 泉 福井大学, 学術研究院工学系部門, 准教授 (20294142)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / 暗黒光子 / 共振空洞 / マイクロ波 |
研究実績の概要 |
今年度は,常温,無磁場の状態に共振空洞を設置し,暗黒物質暗黒光子の探索を行うべく,次の3つの項目で実験開始の準備を進めた.即ち,1) 共振空洞,2)マイクロ波測定系,3)共振空洞と測定器系を接続するアンテナ系の設計と構築である. 1)共振空洞の設計では,これまでに探索が行われていない,5GHzの共振周波数をターゲットに定め,有限要素法を用いてシミュレーションして設計した(Ansys HFSS).この空洞は矩形の空洞で,中心部に高純度銅,あるいはテフロン球を導入し,その位置を変化させることにより,暗黒物質暗黒光子の質量にマッチした共振周波数が得られるものとした. 2)マイクロ波測定系は,低ノイズアンプなどマイクロ波回路系のデザインした.特に,アンプの利得の安定性が測定の妥当性に直結するため,測定中に高頻度で較正を可能とすべく,マイクロ波スイッチを使い,雑音源(ホットロード)と共振空洞とを交互に測定出来る様に設計した. 3)のアンテナ系であるが,この部分で研究に時間を要した.本実験では,共振空洞からマイクロ波測定器系へ取り出すパワーを,共振空洞内に蓄積されるパワーの半分とするのが理想的である(臨界結合).最も単純な形状のモノポールアンテナで臨界結合を実現すべく,HFSSを用いて設計したところ,臨界結合付近の結合度では,アンテナ付近の電磁場が集中的に取り出され,結果として,共振空洞のモードが,実験で使用するTM010モードからズレてしまうことが判明した.試行錯誤の末,共振空洞側面に,インダスタンス結合で導波管を接合し,その導波管からパワーを取り出す方式を採用した.インダクタンス結合の窓を細長くすることにより,充分な結合の大きさを保持しつつ,TM010モードの乱れを最小限に抑制することができた. これらの3要素各々を今年度内に構築した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要に記した様に,3)のアンテナ系の設計に時間を要した.マイクロ波パワーの測定をモノポールアンテナを用いた系から,インダクタンス結合と導波管による系に設計変更を行ったが,これは,1)のマイクロ波共振空洞の設計を1からやり直すことを意味した.これに加えて,昨今の半導体とその関連部品で納期が長期化した影響を受け,2)マイクロ波測定系のための部品が,年度末まで納品されない事態に直面した.この結果,同等品への変更などで対処したが,測定器系の構築も遅れることとなった. 当初の計画では,これら3要素を組合わせて,暗黒物質暗黒光子の実験を2021年度中に開始する予定であったので,現状では,当初予定よりはやや進捗が遅れていると言わざるを得ない. しかし,インダクタンス結合と導波管による系に設計し直したことにより,次の2点で,実験系全体の性能が向上した.つまり,共振空洞中の励起モードの乱れが小さくなり,また,臨界結合に調整する許容度が上昇した.さらに,マイクロ波部品の到着を待つ間,低温環境下に共振空洞を導入する検討を進め,そのベースデザインが固まりつつあり,低温環境下での研究内容を多少先取りして進めることができた. これらの効果により,今後研究の遅れを取り戻すことができると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,先ず,納品済みのマイクロ波測定機器,部品から2)のマイクロ波測定器系を完成させる.完成後は系のシステム雑音の測定と利得の安定性を確認することが最も重要である. 次に,前述の3要素,つまり,1)共振空洞,2)マイクロ波測定器系,3)アンテナを組合わせ,~5GHzで暗黒物質暗黒光子の実験を行い,物理の成果を得る. また,マイクロ波共振空洞を冷却する準備を行う.様々なマイクロ波部品(ケーブル,アッテネータ,サーキュレータなど)の温度による応答変化を測定し,それをデータベース化する.低雑音のクライオアンプの雑音指数や利得の温度依存性の測定も重要である.これらの測定は,既存のクライオスタットとベクトルネットワークアナライザを用いて容易に実行可能で,一部のものは測定を終えているものもあるが,1つ1つの測定には時間が要する.これらの測定を1つ1つ着実に進める必要がある. これらデータをコンパイルし,測定システムを設計し,共振空洞とマイクロ波測定器系を低温環境下に設置する.系を低温下におくことで,アンプを主とするシステム雑音を抑制し,より感度を向上させた実験を,2022年度中に開始したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の概要に記した通り,本研究で用いるアンテナの設計に時間を要し,そのために,研究に用いる実験系の仕様を決定する時期が,当初の予定よりも遅れた.この遅れに加え,周知のように,半導体とそれに関連する各種電子機器の納期の大幅な遅れの影響を受けた.代替品への振替など,研究の進捗に影響を最小限に抑制する努力を行ったものの,年度内に購入しきれなかった実験用機器がある.これら機器,部品は2022年度のかなり早い内に当初に入手できる目処が立っている. 次年度では,クライオスタットに導入するために,各種の低温関連,真空関連の実験機器の導入を予定通りに進め,これによって,低温環境下で,感度を向上させた暗黒物質-暗黒光子の探索を行うために,予算を使用する計画である.
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