暗黒物質とは,宇宙の重力源の大部分を占める正体不明の物質であり,現代物理学のパラダイムである標準理論の枠組を超えた存在である.暗黒物質の候補は多岐に亘るが,本研究では暗黒光子,アクシオン類似粒子を対象に研究を実施した.両者は超弦理論などで予言され,質量は非常に軽いと考えられている.暗黒光子とアクシオン類似粒子では,後者は強磁場の存在下でマイクロ波光子に転換し,前者は磁場を必要としない.いずれの場合も,予想されるマイクロ波信号は非常に微弱であり,共振空胴を用いて信号を増幅する必要がある.また,極低温に冷却し,光子雑音を抑制することも必要である.すなわち,暗黒光子探索では,マイクロ波技術,極低温技術が必須であり,アクシオン類似粒子探索では,さらに強磁場環境が要求される. このように,暗黒光子,アクシオン類似粒子の探索では,複数の技術的なハードルが存在するが.本研究は,1)室温下での暗黒光子探索,2)極低温下での高感度暗黒光子探索,3)極低温,強磁場環境下でのアクシオン類似粒子の探索と,3段階で研究を推進し,4)その将来にある暗黒物質アクシオン探索の基礎を構築することを目的とした研究である. 2021年7月の研究課題採択以降,マイクロ波空胴の開発と,データ取得システムの構築を行い,2022年12月に,常温,無磁場での暗黒光子探索実験を遂行した.その後,実験系を冷凍機内に移設し,2023年に極低温でのテストランを行った.このテストランで問題点が無かったため,2024年1月に磁場を印加し,アクシオン類似粒子の探索に移行した.現在,これらデータの解析を慎重に行っている.クイックな解析の結果では,データ取得系は非常に安定に動作することが確認されており,将来のアクシオン探索では,長時間ランによる感度上昇が有効である点が確認されるなど,1)~4)の全ての目標をクリアする成果が得られた.
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