研究課題/領域番号 |
21K18623
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
関谷 洋之 東京大学, 宇宙線研究所, 准教授 (90402768)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / キセノン検出器 / TPC / 宇宙素粒子 / ニュートリノ |
研究実績の概要 |
大型キセノンTPCによる暗黒物質探索実験で未踏領域のうち、暗黒物質の質量10GeV以上の「重い領域」では約3桁、10GeV以下の「軽い領域」で約6桁の感度向上が必要である。そのためのブレークスルーとなりうる「重い領域」と「軽い領域」両方を同一の検出器で探索可能とする新たな手法の開発を目的としている。具体的にはキセノンやアルゴンといった重い希ガスとヘリウムやネオンといった軽い希ガスを混合した液体TPC暗黒物質検出器の開発を行う。 まずは液体での試験より難易度の低いガス中での混合ガス試験から開始した。その中でもキセノンをベースに検討を行った。純キセノンガスは放電しやすいという短所があるが、他のガスがクエンチャーとして働き、より安定した大型検出器を実現できる可能性がある。キセノンの放電が問題になることから、チェンバー内へ高電圧を印加するためのフィードスルーの開発、検討を行った。これまでの研究から一般的なSHVコネクタを使用したフィードスルーでは5kV程度の印加で放電が見られことが分かっていたので、セラミック絶縁体の被覆部面積が大きなフィードスルーをいくつか購入して応答の調査を行っている。 一方で、液化した希ガス中で使用できる光電子増倍管の開発も開始した。放射線不純物はなるべく低減させる必要がある上、液体希ガスは半導体の洗浄に用いられるなど、不純物を溶出させる能力があるため、高電圧分割回路などの基板や素子の選定が重要であり、超純水への溶出試験やGe検出器での測定を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はガス検出器のエキスパートであり協力研究者であるフランスCEA/SaclayのIoannis Giomataris およびイギリスBirmingham大学のKonstantinos Nikolopoulos 、Ioannis Katsioulasと共同で実施し、Nikolopoulosと Katsioulasが主にキセノンガスへのアルゴン・ネオンガス導入によるシンチレーション発光特性の調査を担当する予定であった。しかし、コロナ禍により双方に行き来ができず、ガス試験を実施するところまでは至らなかった。その代わりに重要な開発要素であるフィードスルーについて月に1回Web会議を行うことにより、情報共有しBirminghamと神岡双方でテスト環境を整えて開発を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
フィードスルーの選定後、まずキセノンにアルゴンを導入することで、アルゴン発光の特長であるシンチレーション波形解析による粒子識別能力を調査する。 これまでに、液体アルゴンへキセノンを1000ppmまで徐々に導入した場合のシンチレーション発光量については報告がありキセノン側へ発光波長をシフトさせながら発光量増加していることが分かっている。一方、液体キセノンへアルゴン(やネオン)を導入したものは報告されていない。異なる希ガスが最終的に液相で均一に混じる最大濃度を調べることが重要であるので、ガスでの混合試験から段階を追って行う。 光電子増倍管の開発も引き続き行う。放射性不純物の評価後、低温での試験を実施予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
主にイギリス-神岡間の旅費と神岡でのアルゴンガス導入のための費用を計上していたが、コロナ禍で移動できず主にオンライン会議で情報共有とフィードスルー試験を行ったためである。今後移動が可能になり次第、神岡での研究を開始する予定であり、旅費、ガス導入装置とも使用する計画である。
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