本研究は原子核乾板を用いた将来のニュートリノレス二重ベータ崩壊探索実験に向けて、MeV電子のエネルギー測定精度の向上を目指し、新たに平板状のハロゲン化銀結晶を用いた原子核乳剤を開発した。 ・通常の正八面体のハロゲン化銀結晶と比べて平板状結晶にすることにより、荷電粒子の結晶内通過距離の不定性を劇的に改善できると考えられる。名古屋大学F研の原子核乳剤製造装置を用いてハロゲン化銀結晶の核形成時のゼラチン量を減らすことで保護コロイド能を抑制しつつ、銀電位を低く保つことで、双晶面と呼ばれる結晶欠陥を持った核を形成し、平板状の結晶を作製した。これにより、素粒子実験用の平板状結晶で構成される原子核乳剤の開発に世界で初めて成功した。 ・ハロゲン化銀結晶の現像確率が結晶内通過距離に比例するシンプルなモデルを仮定してシミュレーションを実施した結果、従来の直径200nmの正八面体のハロゲン化銀結晶では約187nm以上の通過距離を要することが分かり、それ以上の厚みの平板状結晶を作製すれば現像確率を飛躍的に向上できるとの示唆を得た。 ・作製した平板状結晶の厚みを測定すべく、ゼラチンを排除してコロジオン膜を貼ったメッシュ上に結晶を載せた電子顕微鏡サンプルを用意し、傾けて真空蒸着することで結晶の影で厚みを表現する手法を導入した。また、厚みのリファレンスとしてラテックス粒子を混ぜている。名古屋大学医学部医学教育研究支援センターの電子顕微鏡を用いて作製した平板状結晶の厚みを測定した結果、最初に作製した平板状結晶の厚みは約80μmであった。 ・結晶の厚みを増大させるために、乳剤製造装置の銀電位を調整できるようセッティングを行い、実際に厚みを増大させた結晶を作製した。
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