研究課題/領域番号 |
21K18636
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
佐藤 大輔 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究員 (40780086)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 誘電体レーザー加速 / 遠赤外光 / 電子加速 / レーザー / 光加工 / 誘電体 |
研究実績の概要 |
本研究は、超小型かつ高電力効率の高エネルギー電子線形加速器の実現を目指して、遠赤外光の光電場を直接、電子加速に用いるレーザー誘電体加速方式の開拓を目的としている。電子加速器は、今日の素粒子・原子核物理の発展やX線による非破壊計測など、学術・産業の両面において、その発展に大きく貢献してきた基盤技術である。電子加速技術の中でも、近赤外光を用いたレーザー誘電体加速技術は高電界が励振できる点で優れているが、その光波長の短さ故、その加速管にはサブミクロンの微細構造が必要となり、長距離加速が困難な点などが大きな課題である。本研究では、加速電界の励振には遠赤外光を採用することで、加速管の製作精度や電子ビームの時空間制御における精度を緩和し、光加工による高アスペクト比の精密加工技術等を用いて長尺のレーザー誘電体加速管の実現を目指す。 本年度は、レーザー誘電体加速構造の理論構築・設計を行った。加速構造としては、誘電体同軸テーパー構造という独自の構造を考案した。誘電体同軸テーパー構造は、誘電体円筒の外径がビームの入射側から出射側に向けてテーパー上に狭まっていく構造からなる。まず、マクスウェル方程式より、誘電体同軸テーパー構造内を伝搬する遠赤外光の進行波について解析的に計算したところ、約100keV ~ 1MeVの電子ビームについては、一つの加速管でシームレスに加速できる構造が見出された。同構造について、3次元有限積分法による電磁場シミュレーションを用いて、計算したところ加速管としての有用性が確認できた。 上述の加速構造の製作に向けて、光加工による高アスペクト比の精密加工技術の開発に取り組み、遠赤外光の透過媒質において、現状ではアスペクト比が5程度の加工まで成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
レーザー誘電体加速管の設計においては、新たな加速管構造を考案し、その理論構築と3次元電磁場シミュレーションによる加速管の詳細設計を行うことができ、当初予定を達成した。加速管を製作するための高アスペクト比の精密光加工技術の開発においては、材料によって加工条件が大きく異なり、特に本加速管に最適な遠赤外光透過媒質の高アスペクト比加工が想定以上に困難であることが分かってきた。そのため、当初予定していたテストサンプルの作成まで至らなかった点などを考慮して、進捗がやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本加速管に最適な遠赤外光透過媒質の高アスペクト比加工が想定以上に困難であることを踏まえて、高アスペクト比加工に向けた加工のR&Dは進めつつ、ドライエッチング加工などを用いた非軸対称レーザー誘電体加速管の製作を検討する。ドライエッチング加工等は所属研究機関内にあるナノプロセッシング施設等を活用して早急に進める。これらの方法で開発した加速管を用いて電子加速試験を行い、電子ビームのエネルギーを測定することで、加速電界を見積もり、本加速システムの有用性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
①コロナウイルスの蔓延による出張等の制限等により、予定していた出張等がキャンセルになった。コロナウイルスの世界的な感染拡大に起因したサプライチェーンの混乱により、当初予定していた、②次年度の原理検証実験の準備で必要であった物品の購入を事前に予定していたが、一部が購入不可や納期未定のため購入を見合わせたものがありました(遠赤外光学部品、電源装置など)。③同様の理由で、購入手続きを進めたが、納期が遅延し、次年度に納期が延長になってしまったものがあった。④本加速管に最適な遠赤外光透過媒質の高アスペクト比加工が想定以上に困難であり、加速器システムの仕様が決まらなかったため、エネルギー分析システム等の実験設備開発を次年度に持ち越した。 翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画としては、①に関してはコロナによる規制が緩和されてきたため積極的に学会等の発表に参加し、成果を報告する予定である。②においては、特に遠赤外光学部品と電源装置においては、購入可能となったものもあり、年末の実験予定までに購入可能な物品は、当初の予定のまま本年度購入し、未だに購入できないものに関しては代用品の購入を検討する。 ④ネルギー分析システム等の実験設備においては、現在、既存の加工技術を用いた(ドライエッチング加工など)非軸対称レーザー誘電体加速管の仕様を年度上旬に決定し、年末の原理実証実験までに開発を完了する。
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