研究課題
放射光X線と高温高圧実験との相性は良く、相互的な技術革新によって地球深部の条件まで実験的に測定することが可能となり、多くの研究成果を挙げている。しかしながら、X線では高圧セルに封入されている試料中の軽い元素を見ることがほぼ不可能であり、それらの軽元素を対象とした測定も困難である。地球科学いう観点に立つと、軽い元素を対象にした研究を避けることはできない。特に地球という惑星を考えた場合、「水」は極めて重要な物質である。そこで、水を研究する上で有効な中性子ビームを活用することに目を付けた。本研究では茨城県の東海村にあるJ-PARCのBL11(PLANET)ビームラインにおいて、中性子回折実験と中性子イメージングの2つの手法に焦点を当てて研究を進めた。中性子回折実験を利用することで、X線回折では不可能であった含水のナトリウムケイ酸塩メルトの構造(水素位置も含む)の直接的な決定に成功した。5GPaまでの圧力条件下におけるマグマの構造データを取得し、各結合の圧力依存性を解明することができた。ケイ素-酸素間距離、ナトリウム-酸素間距離、酸素-酸素間距離は圧力が増加しても大きく変化しないが、水素-酸素間の距離は圧力に対して敏感であり、圧力起因の重合化が起きていることを突き止めた。中性子イメージングでは長時間の撮影時間が必要となるため、ビームラインに設置されている6軸プレス圧姫を用いた高温高圧実験テストを行い、長時間安定に高温高圧条件を保持できる実験セルを構築することに成功した。加えて、ビームライン担当者と研究打ち合わせも進め、中性子イメージングを進める体制が整った。
3: やや遅れている
中性子イメージング実験は、茨城県の東海村にあるJ-PARCのBL11(PLANET)ビームラインで実施するため、そこに設置されている6軸プレス圧姫を用いた高温高圧実験テストを行い、長時間安定に高温高圧条件を保持できる実験セルを構築することに成功した。加えて、ビームライン担当者と研究打ち合わせも進め、中性子イメージング実験を進める準備が完了した。ただし、今年度はイメージングのビームタイムを確保できなかったため、実際のイメージングデータを取得するには至っていない。
大きくコントラスをつけるために重水を用いた「フォルステライト+水系の反応実験」を高温高圧下で行う(圧力:~3万気圧)。中性子イメージングでその場観察しながら、フォルステライト中への水の拡散係数および蛇紋石化の反応速度を明らかにする。蛇紋石を高温高圧下で脱水させて、放出された水と周囲の鉱物間の二面角に着目し、中性子イメージングを用いてその場観察を行う。沈み込むプレートの温度・圧力条件を実験的に再現し、固液二面角の温度・圧力依存性を明らかにするParis-Edinburghプレスを回転ステージに載せることで中性子CTを取得し、流体の3次元ネットワーク構造の可視化を目指す。流体の連結度の温度・圧力依存性から、どのような条件でプレートから水が効率的に抜け出すかを明らかにする。得られた研究成果は学会や国際誌で発表することで世界に発信する。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 6件)
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