研究課題/領域番号 |
21K18642
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
井龍 康文 東北大学, 理学研究科, 教授 (00250671)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | ラマン分光法 / 炭酸塩 / 続成作用 |
研究実績の概要 |
炭酸塩岩および炭酸塩生物化石は,過去の地球環境や古生態を詳細に記録した重要な地質記録媒体の1つである.より洗練された地球史解読を目指す上で,早急に解決されるべき未解決の課題が「炭酸塩試料がどの程度初生的な記録を保持しているかをいかに的確に見極めるか」という問題である.そこで本研究では,炭酸塩の“結晶度”と“元素の配置”の関係に着目し,電子線マイクロアナライザー(FE-EPMA)分析法とラマン分光法を組み合わせた非破壊分析が炭酸塩試料の続成判定にどの程度有用であるかを検討する.2021年度は,炭酸塩試料に適したラマン分光分析の手法を検討することに重きを置き,研究を進めた.続成作用を被っていない炭酸塩試料の傾向を明らかにするため,生体試料の炭酸塩生物殻を用いてラマン分光分析を行った.生物殻には有機物の存在が報告されているため,それらが結果に影響するか否かの検討も行った.その結果,有機物によって生じたと考えられる蛍光の影響がみられた.ラマン散乱光の信号が埋もれてしまう程ではないものの,生物源炭酸塩の結晶内や結晶外に存在する有機物量の不均質性や,炭酸塩の種類に依存しない傾向を最終的に得る点を考慮すると,炭酸塩に含有する有機物を除去する工程を前処理段階で行う必要があることが分かった.また,本研究で得られたラマンピークと先行研究で得られていた別の試料の微量金属元素濃度(例えば,Mg/CaやSr/Ca)を比較した結果,結晶度とMgやSrの含有量には傾向がみられた,今後,同一殻のラマンピークと微量金属元素濃度の分布や濃度(絶対値)の直接比較を行う予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
炭酸塩試料のラマン分光法の傾向と必要な前処理法を明らかにすることができたため,本研究は順調に進められている.一方,初年度(2021年度)に様々な素性の炭酸塩堆積物,炭酸塩化石試料,炭酸塩鉱物を採取する予定であったが,コロナ禍の影響で予定通り進めることができなかった.よって,試料の採取は2022年度に行う方向で計画を立てている.
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今後の研究の推進方策 |
有機物除去の方法として,先行研究では2種類のやり方が報告されている.1つは過酸化酸素を用いた方法,もう1つは次亜塩素酸ナトリウムを用いた方法である.本研究でより良いラマン分析結果を得るために,どちらの方法が適しているかを検討する予定である.加えて,2022年度は,電子線マイクロアナライザーを用いた金属元素濃度の定量方法について検討する.炭酸塩に含有する金属元素濃度を精度よく定量するには,誘導結合プラズマ質量分析法による湿式分析が最適である.そこで,電子線マイクロアナライザーと誘導結合プラズマ質量分析法の両方を用いて同一部位の金属元素濃度を測定し,両者の元素濃度結果の関係式を導出する.そして,電子線マイクロアナライザーによる元素マッピングの結果から精度よく各元素濃度を見積る方法を確立したいと考えている.これを行うことで,今後,非破壊分析によって,高分解能かつ手軽に金属元素濃度を求めることができるようになる.
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次年度使用額が生じた理由 |
2021度に様々な素性の炭酸塩堆積物,炭酸塩化石試料,炭酸塩鉱物を採取する予定であったが,コロナ禍の影響で予定通り進めることができなかった.そのため,旅費として計上していた費用を繰り越した.よって,試料の採取は2022年度に行う方向で計画を立てている.
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