研究課題/領域番号 |
21K18657
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
芳野 極 岡山大学, 惑星物質研究所, 教授 (30423338)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 鉄同位体 / 高圧実験 / ゼーベック係数 / 酸化還元反応 / 核マントル境界 |
研究実績の概要 |
鉄は太陽系の非揮発性元素の中でも最も豊富な元素の1つで、惑星の形成と分化過程において重要な役割を果たしている。地球のマントルの鉄同位体(δ57Fe)は、コンドライトと同等のδ57Feを持つ火星、小惑星ベスタに対して約0.1‰高いが、高温高圧でのケイ酸塩メルトの実験はコアとマントルの分離時にこのような分別が起きる可能性を否定している。本研究では、CMB上部に位置するマントル最下部は地球内部最大の熱境界層であることから、大きな温度差による熱電(ゼーベック)効果により、CMBで酸化還元反応が起こり、マントル物質の鉄同位体分別が引き起こされたという仮説を検証する研究である。本年度は大容量マルチアンビルプレスを用いた高圧実験を行った。ケイ酸塩試料の片側を鉄合金としてその反対側に白金の電極を配置して、温度差によって生じる熱起電力を模して直流電場を与えた。実験はまず複雑な高圧セルを試すために地球より鉄同位体比が高い月を対象として5GPa程度の圧力で電位差や温度を変数として実験を行なった。オリビン中には白金の酸素雰囲気センサーを入れることで、電位差をかけた試料を横切る酸素雰囲気のプロファイルを検出した。予想通り、試料の電極付近では酸化還元反応が生じており、陽極では酸化的、陰極では還元的となり、試料を横切って連続的な酸化還元プロファイルを持つことがわかった。オリビンのゼーベック係数の測定は2系統独立加熱法を用いて試料の両端の温度差を制御しながら実施した。鉄を含むオリビンのゼーベック係数は低温では電子ホールのホッピングによって正の値を示すが、1100℃以上では金属サイトの空孔の移動が主体となり負の値を示した。このことは、ゼーベック効果によってCMBで起こる反応は還元反応ということになる。本試料を用いて次年度は鉄同位体分析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、マルチアンビルプレス高圧発生装置を用いて高圧下でゼーベック効果で生じる電位差を人為的に与えるため、鉄合金とケイ酸塩試料に直流電場をかける実験を行なった。対象は月のCMBを対象としてオリビンと鉄合金の間の酸化還元反応を調査した。その結果、電位差をかけると有意な酸化還元反応が起きていることが確認された。CMBにおける反応が酸化還元反応のどちらになるかに関しては、2系統加熱法によるゼーベック係数の測定実験を行い、オリビンのゼーベック係数は高温では負になることが確認された。これらの成果は当初の計画とおり概ね順調に推移しているといえる。一方で、本年度中に鉄同位体の分析までには至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
すでに行なった実験試料を用いて鉄同位体分析を行い、同位体分別が効果的に起きているかを確認する。地球のCMBを対象とするためには、下部マントルの構成鉱物であるブリッジマナイトと鉄合金界面での酸化還元状況を明らかにすることが求められる。そのためにはブリッジマナイトの安定領域におけるゼーベック係数の測定、直流電場をかける実験を今後進める必要がある。そのため低圧で行ってきた実験をセルサイズを小さくすることで高圧領域に拡張していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はコロナ禍などもあり東京大学で行う予定であった鉄同位体の分析を行わなかったため、旅費を全く使用しなかった。次年度はより頻繁に長い滞在で分析を行うことを予定している。
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