鉄は太陽系の非揮発性元素の中でも最も豊富な元素の1つで、惑星の形成と分化過程において重要な役割を果たしている。地球のマントルの鉄同位体(δ57Fe)は、コンドライトと同等のδ57Feを持つ火星、小惑星ベスタに対して約0.1‰高いが、高温高圧でのケイ酸塩メルトの実験はコアとマントルの分離時にこのような分別が起きる可能性を否定している。本研究では、CMB上部に位置するマントル最下部は地球内部最大の熱境界層であることから、大きな温度差による熱電(ゼーベック)効果により、CMBで酸化還元反応が起こり、マントル物質の鉄同位体分別が引き起こされたという仮説を検証する研究である。 本年度は大容量マルチアンビルプレスを用いた高圧実験でゼーベック係数の測定をより高圧領域の拡張を行った。ゼーベック係数の測定については、昨年度開発した熱電対を2対、デュアル加熱用のヒーター電極を2対、さらに熱起電力測定の電極合計10本を取り出すセルの小型化を行い、核マントル境界で安定に存在しているブリッジマナイトの安定領域での測定を目指した。本研究では、まずマントル遷移層における安定相である含水ワズレアイトのゼーベック係数の測定を行った。鉄入りのワズレアイトに関してはゼーベック係数の決定に成功したが、より高圧で安定なブリッジマナイトの測定には至らなかった。一方、酸化還元反応を再現するためにケイ酸塩試料の片側を鉄合金としてその反対側に白金の電極を配置して直流電場を与えることで、温度差によって生じる熱起電力を模した実験をブリッジマナイトの安定領域で試みたが、高温時で鉄合金が融解するとヒーターが不安定になるなど多くの問題が生じたために酸化還元反応の観察を行うことはできなかった。ブリッジマナイトの酸化還元反応実験が成功しなかったため、期間中に鉄同位体分析に至ることはできなかった。
|